第24話

「———…待ってよ…!!」


そこにいたのはもちろん安藤さんで、私の手首を掴むために腕を伸ばしているせいでスーツの袖は一瞬で濡れてしまっていた。



「えっ…?」


「話し込んでごめん!!」


安藤さんの背後の屋根のあるところには、さっきの女の人が少し驚いた顔でこちらを見ていた。




今、きっと私はあの女の人の世界に足を踏み入れた。





透明人間じゃ、ない…





「あの、えっ…と…」


「ナナミちゃん、帰りは駅!?」


安藤さんの顔は少し焦っていた。


「あ、はい…」


「俺もだから、駅まで一緒に行かない!?」


「あ、はい…」


さっきから大した言葉を発していない私なのに、安藤さんは安心したように「はぁ、」と小さく息を吐くとゆっくり私の手首から手を離した。



安藤さんはすぐに後ろを振り返ると、「じゃあおつかれ!」とさっきまで話していた人に挨拶をしてまたこちらへ向き直った。


その女の人はまだ少し驚いた顔でこちらを見ていたけれど、安藤さんはもうその人を気にすることなく私の左隣に並ぶようにして前に歩き出した。



置いて行かれないように、私も慌てて安藤さんの隣へ並んだ。





安藤さん、今確実にあの人より私を優先した…




本人にそのつもりがあったかどうかは分からないけれど、あの女の人だってきっとそう思ったはずだ。


だから驚いた顔をしてたんだろうし…



そりゃ驚くよ。


だって目の前の可愛い女の子よりも道端の空き缶を優先したんだから。




でも、今誰よりも驚いているのはこの私だ。

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