第23話

それは自分だけに買ってきてくれたんだと思っていたあぶらとり紙が自分だけじゃなかったから?




嫉妬?




…いや、なんか違うな。



ていうか別に安藤さんは“私にだけ”なんて一言も言ってなかったし。


私が勝手にそう思い込んでただけだし。




「私も今度安藤さんの好きなもの買ってきますねっ!」


「えっ?いいよ、そんなの気にしないで」


「えー!気にしますよぉー!安藤さんの出張土産、みんないつも期待してるんですから!!」






…あ、何となく分かった。




私今、すごく惨めなんだ。


安藤さんともあろう人の隣にいるのに、また私は透明人間になっているから。



もうとっくに慣れたと思ってたんだけどなぁ。



「ちなみに安藤さんって何が好きなんですか?」


「え?あぁー…何だろう…」


安藤さんのその声は、顔を見なくたって私を気遣っているのが分かった。


なんで私に気を遣うんだろう。


私は透明人間なのに、どうして安藤さんには私が見えるんだろう。




不思議だな…




「分かんないな…」


「えー?何でもいいから答えてくださいよぉー」




…帰ろう。


別に私安藤さんと何か話すことがあったわけじゃないし、ましてや一緒に帰るような約束をしてたわけでもない。


たまたまここで会っただけなんだし。





私、空き缶と一緒だし。





「甘いものとか好きですかっ?」


安藤さんに声をかけたその人は可愛くて眩しくて、この人もまた、安藤さんと同じで天気なんて関係なく輝いて見えた。


パウダールームで会った時とは少し違う人に見えるけれど、それすらも私からすれば羨ましい。


使い分けなんてできない。


ていうか、私はこの“地味な私”しか持ってないから。




「いや、甘いのはあんまり…」


「じゃあ渋め?つまみとか?ていうか安藤さんってお酒とか飲むんですかっ?」



いちいち飛び跳ねるようなその語尾が彼女の可愛らしさをまたさらに増幅させていた。



これ以上惨めな思いをしたくない私は、安藤さんには何も言わずにすぐに持っていた傘をパンッと開いて雨の降る中に足を踏み出した。





はぁ…


…にしても雨すごいなぁ。



ニシヤマくんは元気にしてるのかな。


これだけ降ってるんじゃあそもそも橋の下から出られないんじゃないかな?


もう私、一週間も見てな———…っ!!





足を踏み出して二メートルほど歩き進めたところで、後ろからぐいっと左手首を掴まれて私は今度こそ正真正銘驚いて後ろを振り返った。

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