第22話
「安藤さん…」
何と声をかけたらいいかも分からない私は、とりあえず後ろにいた安藤さんの名前を呼んでみた。
これが一番、無難。
「おつかれさま」
「おつか…あ、えっと、安藤さんも…」
「うん。俺も今から帰るとこ」
「…おつかれさまです…」
安藤さんがよくうちの店に来る人とはいえ、店以外で会うのは何気に初めてだった。
困る…
非常に困る…!!!
店にいる時なら何かしら手を動かしながら会話をするから何とかラリーを繋げられるけれど、こうして何もすることがない時に声をかけられるとどうしたらいいのか分からない。
男の人との会話に正面からぶつかるなんて、私にはハードルが———…
「嫌になるよね、雨ばっか」
「…えっ!?あ、はい、ですよねっ…!!」
安藤さんは天気のせいで私がため息を吐いたんだと思っているようだった。
まぁあながち間違いでもないけれど、私がため息を吐いた本当の理由はきっとそこじゃない。
雨ゆえに会えなくなる彼のことを思って、だ。
…“会えなくなる”というよりは“見られなくなる”の方が正しいかな…
「来週も雨らしいよ。今年ヤバイよね」
「そうなんですねぇー…」
「……」
「……」
何だろう…
…消えたい。
なんで私ってこんなにも会話を広げられないんだろう。
安藤さんはいつもと変わらずニコニコしながら私を見ていたけれど、私はまっすぐにその目を見ることができなかった。
生きててすみません、みたいな気持ちになってしまう。
その時、
「あっ、安藤さんっ!」
少し高い声が聞こえて咄嗟にそちらを見れば、前にパウダールームで会った女の人がいた。
“マジ二千円返せよ、腹立つー”
あの時の彼女の言葉が鮮明に蘇った。
「この前は出張土産ありがとうございましたっ!」
「あぁ、うん。全然」
「やっぱりあのお店のあぶらとり紙は有名なだけあってめっちゃ質が良かったです!!」
「…そっか…なら良かった」
あぶらとり紙……
何だろう、この感じ。
今この場にいるだけでちょっと病んでくるような、この変な感じ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます