第21話
その日、安藤さんは三時頃にいつものコーヒーを買いに来た。
その時にはさっき感じた恥ずかしさはもうお互いどこにもなくて、いつものように適当な世間話をしてから安藤さんは店を出て行った。
外は相変わらず薄暗くて、分厚い雲のせいで空がとても近く感じた。
それでも雨が降っていないだけまだマシかな。
だって雨が降ったらきっとニシヤマくんは橋の下から出て来ない。
その翌日から一週間、空からは遠慮のない雨がひたすら降り注いで、私はずっと彼の姿を見ることができなかった。
ご飯はちゃんと食べてるのかな。
雨のせいで最近肌寒いけど、橋の下って冷えないのかな。
ていうかそもそも真冬は大丈夫なのかな…
それで言うなら夏なんてどうなるんだろう…
熱中症とか脱水症状とかならないかな…?
一週間もその姿を確認できなかったことは私の中でもかなりこたえたようで、自然と私のテンションは落ちていた。
「はぁ…」
仕事が終わって夕方外に出てみればやっぱり今日も雨が降っていて、私は無意識に深いため息を吐き出した。
「ため息かぁ」
突然すぐ近くで聞こえたその声に、私はすぐに後ろを振り向いた。
この建物の入り口で私に声をかける人なんて限られているから本当はその顔を見るまでもなかったんだけど、一応。
反応しておかないとあとで“無視された”なんて言われても困るから。
まぁ安藤さんがそんなことを言うとも思えないんだけど。
こうやって無難に無難に生きていこうとしている自分は、心底気持ちが悪い。
きっと高校時代の透明人間だったあの頃から、私は何一つ成長していない。
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