第16話

「お店のみんなで食べてよ」


「わざわざありがとうございます」


私は頭を下げながら、差し出された紙袋をすんなりと受け取った。


その時目に入った手首の時計があまりにも高そうで、私は下げた頭を戻しつつもそのまま思わず俯いた。


身分が違いすぎやしませんか…



なのに気取らない感じが、安藤さんの好印象にさらに拍車をかけている。



こうやって安藤さんは度々「みなさんでどうぞ」と言って出張土産を買ってきてくれるけれど、私達はこの人に何もあげたことはない。


だって私達には出張とかないし…



「マカロンなんだけど、ナナミちゃん好き?」



この人は買うものまでオシャレだ。


それに“みなさんでどうぞ”のそれに私の好き嫌いなんか関係ないとは思うけど…


その気遣いすらも安藤さんの人の良さなのか、



それとも私のこと…



いやいや、それはない。


それだけは絶対にない。



ユマちゃんが“ナナミ狙い”なんて言うから変な勘違いしそうになったわ。


危ない、危ない…


「はい、好きです!」


マカロンなんて一回しか食べたことないし、味もそんなに覚えてるわけじゃないけど。


たしかザ・砂糖の塊!って感じだった気がするけど…女の子ってこういうの好きだよなぁ。


甘くてカラフルで小さくて…



“女の子”という単語に、自分で思わず笑いそうになった。



誰が“女の子”なんだか…



そんな私を気にせずに、安藤さんは「良かったぁ…!」と安心したような反応をしていた。

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