第15話

今の人達、一瞬もこっちを見なかったな。



私、また空気になってたんだなぁ…



まぁ今の人達の前で存在感を出す必要なんてないし、そもそも私は存在の消し方は身につけていても出し方までは分からない。


ていうか消し方だってよく分かってないし。









どうしていたら、私はニシヤマくんの世界に入れていたんだろう。









私はもう一度さっきみたいに鏡に身を乗り出すと、今度こそ素早く最低限の化粧を終えてパウダールームを出た。







その日、一時を回ったくらいで安藤さんが店にやって来た。



「ナナミちゃんっ!」


「…あ、こんにちは」


「こんにちは。ちょっと出てこれる?」


安藤さんはキッチンの中にいた私にカウンター越しに手招きをしながらそう言った。


「あ、はい」




コーヒー豆の補充をしていた私はすぐに残りの豆をマシンに入れて踏み台から降りた。



いつものコーヒーを買いに来たんだろうに、“出てきて”とは一体何事だろう。


キッチンから店内に出てみれば、天気のせいでフロアの中は全体的に薄暗かった。


このフロア一面にある大きな窓は天気が良ければ気持ち良いくらいに太陽の光が入ってくるのに、その大きな窓のせいで今日みたいに天気が悪い日はこんなにもどんよりしてしまう。


窓も大きけりゃいいってもんでもないな…



そんなことを思いながら表のカウンターの隅にいた安藤さんのところへ行けば、安藤さんはこちらに体を向けて笑っていた。



爽やかだなぁ…


ブルーのシャツがよく似合う。


天気が悪くてもこの人には全く関係ないな。


「どうかしましたか?」


「これ」


そう言って安藤さんは右手に持っていた紙袋を持ち上げた。


「何ですか?」


「出張土産。昨日京都から帰ってきたんだ」



出張で京都…


もはや私からすればそれだけでもうこの人は勝ち組なんだなぁと思えてしまう。

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