第9話
満員電車をやっとの思いで降りると、私は急いで改札を抜けて駅を出た。
高層ビルが立ち並ぶこの通りの中でも一際目立つ、大きすぎるこの建物。
ここが私の職場だ。
…って言っても、私が働くのはこの中の四階に入っている社員用のカフェなんだけど。
スーツでキリッとした人達が出社する中で、私は適当な服に眼鏡ですっぴん…
本当は泣きたいくらい恥ずかしいはずなのに、私は私のことをよく分かっているおかげでそこまでの恥ずかしさはもう感じない。
だって私地味だし。
きっと私は今でも誰の眼中にも入ってないから。
私がすっぴんだろうが何だろうが、誰も何も困らない。
その辺の空き缶みたいな感じ。
視界に入ったってそれに気を取られるような存在じゃない。
私のこういう考え方は卑屈かもしれないけれど、これはこれで助かる部分もある。
じゃなきゃ朝が苦手な私はもっと大変な思いをしてしまっていただろうから。
私は専用のカードで入り口を抜けると、そのまま四階へと階段を使って進んだ。
エレベーターなんて乗れないよ。
あれは私なんかが使っていい代物じゃない。
ただでさえ朝のエレベーターは混んでいるのに、私が乗るスペースがあれば誰か他の人が乗った方が絶対良いから。
なんとか出社時間である九時ギリギリに更衣室へ入り、制服に着替えを済ませると私は店へと顔を出した。
「おはよう」
「あっ、ナナミおはよー!」
元気よく返事を返してくれたのは同じくこの店で働く二十四歳のユマちゃんだ。
同い年ということもあって、私たちはかなり仲が良い。
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