第8話

そんなボロボロの彼なのに、私のクリアになった脳内は忘れかけていた高校時代のあの淡い恋心をぶわっと一気に鮮明に蘇らせた。


それで実感した。


私は彼の見た目ではなく何かもっと深い部分に惹かれていたんだろう、と。



それでも声をかける勇気なんてもちろんないし、“高校の時同じクラスだったよね?”なんて言おうものなら“お前、誰?”で会話は終わると思う。


そんなの自分から落ち込みに行くようなものだ。




でも、いいんだ。



こうして毎日遠くから見てるだけでも、十分幸せだもん。



これが一生続くなんてもちろん思っちゃいないけど、彼がそこからいなくなるその日まで、









私はただただ遠くから



あなたを見守るだけの存在なのです。











最初から諦めモードな私に、神様は更に呆れてしまっただろうな。


でもさぁ、無理だよ、神様。


私みたいな地味女にそんな遠回しなことしないでよ。


この絶妙な距離感は何?

同じクラスでも話しかけられなかった私が、今更近付くなんて…





こんな風なことをこの半年、もう何度も繰り返し考えた。


ぐるぐると同じところを巡って、なかなか抜け出せない。



「はぁ…」



見てるだけでいいと言ってみたり、抜け出せないとため息を吐いてみたり、


私って何がしたいんだろう。


このどんよりとした天気に煽られるように、私は朝から憂鬱な気持ちを抱えつつ電車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る