第6話

じゃあなんで私がそんな全く関わったことのない彼を好きになったのか。


そんなことは自分にだってよく分からない。


気付けば目で追っていて、気付けば一日中彼のことを考えていた。



でも彼がみんなを引き寄せるのにはきっとその見た目も関係があって、他のクラスの女子に呼び出される彼を私は何度も見たことがある。


それでも相変わらず彼の反応は冷めていて、あんなにも一日中目で追っていた私ですらも彼の照れたような顔なんて一度も見たことはなかった。





たまに聞こえる彼の言葉は少し乱暴なのに、それすらも私には魅力的で。



例えば“お前”とか、…



言われたいです、私も。

お前でも何でもいいんです。


私にはちゃんと名前があるけれど、もうこの際名前じゃなくてもいいんです。


私のことを指した言葉を聞きたいんです。



…私って本当に変態なのかもしれない。




でもその願望は、卒業するまで叶いはしなかった。



言い訳に聞こえるかもしれないけれど、その原因は私の行動力の問題だけじゃない。



彼の隣にはいつも他の学年の人達からも人気があって可愛いと有名な彼女がいたから。



『カスミ、』



ニシヤマくん、そう呼んでたっけ。


名前で呼ばれる彼女が、私はすごく羨ましかった。


私もそんな人生が良かった。



“カスミ”さんはきっと私の知らないニシヤマくんのいろんな顔を見たことがあるだろう。





二年くらい前に同窓会があったらしいけど、私はそれがあったことすらも知らなかった。


きっとみんな私のことなんてとっくに忘れてて、もう一生思い出すこともないだろう。


私はSNSでたまたまその同窓会があった事実を見かけただけだ。



でもそれはもういいや。

だってあらゆる人のいろんな写真をくまなくチェックしてみたけれど、どこにもニシヤマくんの姿はなかったから。


でも、“カスミ”さんはいた。


だから私は心底安心した。


二人はきっともう別れたんだ。





神様は私に呆れていると思う。



こんなことくらいで変に安心しているし、せっかく三年間同じクラスにしてやったのに会話はおろか何のアプローチもできないなんて。


お前は何もかもが地味な女だな、…みたいな。



どれだけ安心したって今どこで何をしているのかも分からないし、結婚してたっておかしくない彼のことを今も運命の人だと信じて想い続けているんだから、私ってかなりめでたいやつだ。


何を根拠に彼を運命の人だなんて思ってるんだろう。


気持ちが悪い。




でも、高校を卒業して六年。


ここまで一度も接点を持てないともうさすがに無理だろうと思えてきていた。


接点はおろか街ですれ違いもしない彼のことを、どうやって追いかけたらいいのかが分からない。






運は尽きたかに思えた。

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