第5話

十五歳。


思えば私はあの時から運が良かった。



だって三年間彼と同じクラスだったから。



それでも一言も話せなかったのは、きっと私の実力不足だ。


私はあの視界に入ったことすら…



…あ、いや、そんなことはない。



ある。



一度だけ。




高二の体育祭で、彼のいる男子の集団の隣を私は歩いていた。


その集団の隣を歩いていたのは半分偶然で半分はわざとだった。


端を歩く彼の隣を誰よりも先に陣取った。


そんなことでニシヤマくんと一緒に歩いた気分を味わって浮かれていた私はちょっと変態だと思う。


でも、それができたのはきっと私だからだ。




身を潜めるように、誰にも見つからないように。




もちろんわざとそうしていたわけではないけれど、気付けばそんな風に生活を送ることに慣れてしまっていたから。



あの時の私は誰よりも存在感を消すのが上手かったと思う。



「…あぁ、お前いたのか」って先生にもよく言われたし。



その“…あぁ、”に無性に腹が立ったっけなぁ。



…で、その体育祭で勝手に隣を歩いていた時、他の男子が彼の肩を軽く押したから、そのまま彼は隣を歩いていた私にぶつかった。




———…ドンッ



「あ、悪りぃ」


「…あっ、はい…」






それ、だけ。




たったそれだけでも、私は彼の肩を軽く押したそのお友達の男子に頭を下げたいくらいに感謝した。


今はその人の名前も覚えちゃいないけど。





あの時確かに彼はこちらを振り返り、私に謝った。


その時、私もちゃんと……“ちゃんと”?


あれはちゃんとって言うのかな…?



でも私は確実にニシヤマくんに向けて言葉を返した。



れっきとした会話…



…あ、いや、あれは会話とは言えないかな…


届いたかどうかも分からないくらいに私の声は小さかっただろうし。






彼は何だか周りとは少し違った空気を持っている人だった。


その目はすごく冷めていて、笑う顔を見たことは何度もあるのにいつもそこまで楽しそうじゃなかった。



いつも落ち着いていて特にはっちゃけているところなんて見たことはないのに、彼はいつも明るい友達に囲まれていた。


引き寄せられるように集まるみんなと同じように、私も引き寄せられた。



でも私の場合は気持ちだけ。



とてもじゃないけど私みたいなどこの誰かもよく分からない地味女が隣にいるなんて、そんな間違いあっちゃいけない。

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