第87話

もちろん駅で彼の帰りを待っていたのは私が勝手にそうしたことでこの展開は彼には何の非もないことではあるのだけれど、このやり場のない感情を私はどうすることもできなかった。


そう考えるとやっぱり虚しい気もするし、健気に寒いホームで彼の帰りを待っていた私のことなんてお構いなしにそこでくつろぐ彼を想像するとやっぱり少し悲しいし…



いや、そりゃまぁ私は“待ってる”とも“一緒に帰ろう”とも言ったわけではないから、何がどうなってそうなったのかは分からないけれど、私が思うよりもうんと早く仕事を終えたらしい彼が今自分の部屋でくつろぐことはもちろん何も悪いことじゃないんだけど…





でもやっぱりさ、


この約五時間は苦痛じゃなかったとはいえとても長かったから。



十八時を過ぎてからの三時間以上なんてそりゃもう電車がホームに入ってくるたびに期待して彼を探して、なんならちょっとドキドキしたりなんかしてて……



その全てが無意味なものだったのだと思うと、やっぱり私の中にはちゃんとムカつきもあった。



きっとその怒りをしっかり探ればその矛先は他の誰でもない自分に向いているものだということも頭では分かっていたのだけれど、自分に向けたところでどうにもできない私は無茶苦茶ながらに彼にぶつける以外の方法が見つけられなかった。





子どもだと思う。


彼からすれば面倒なクソガキで、迷惑な隣人で、鬱陶しいだけのきっとまだまだ限りなく赤の他人に近い存在で、それから———…





———…ドンッ…!!!!




「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、…」





こんなにいっぱいいっぱいになったのは生まれて初めてかもしれない。


自分が自分じゃないみたいで、制御も効かなければ意識だってなんだか途切れ途切れな感じで覚束ない。



現に私は今ほぼ無意識の状態で気付けば静かで真っ暗な自分の部屋にいて、彼の部屋のある壁を右手で握り拳を作って思いきり叩いていた。

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