第83話

その行動があまりにも強気な上に強引で、私の中にあった覚悟のようなものが少しだけ怯んでしまった。



「…あ、はい…そう…でした…」



私、何やってんだろう…



それからすぐに閉まったドアに、私と彼は完全に引き裂かれてしまった。


でもきっとそれを“引き裂かれた”と思ったのは私だけで、依然ドアの前に立つ彼はもう私から目を逸らしていた。



一瞬だけ、本当に本当に一瞬だけ、


電車に乗ってすぐにこちらを振り返った彼は私との別れを少なからず惜しんでくれるのかなんてまた淡い期待を抱いてしまった私だったけれど、よく考えてみれば電車に乗り込んだ彼はいつも窓際に立ってたわ…



それにしても、何も足で蹴ることないのに…




それから彼を乗せる電車が発車して見えなくなるまで私はとにかく車内の彼を見つめていたけれど、彼は私を一瞬たりとも見ることはなかった。




出だしは間違いなく良好だったはずだし途中だってあんなにも浮かれていたのに…



最後の最後で自爆した感じになっちゃったな。





“…何でそう思ったんだよ”



どんな質問に対してもずっと黙っていた彼は、どうしてあんなことを私に聞いたんだろう。


そしてそれにちゃんと答えた私に彼はなぜまた黙ってしまったのか。



“今はそうは思いません”なんて言ったから、あぁ、ならいいやとでも思ったのかな。



だとするならば私は“実は嫌われているわけじゃなかったんだ”という結論に至ってしまうのだけれど、それだって本人の口からはっきりと聞いたわけではないから自信を持ってそうだとも言い切れない。



この話を後日…ていうか今日の彼の仕事帰りに話すのは、彼からすればウザいだろうか。



「はぁっ…めちゃくちゃ気になるしっ……」









結局のところ、話しかけてその距離を少なからず縮めたところで私が彼のことを気になるのは変わらなくて、その日も一日中ずっと頭の中から彼が消えることはなかった。


なんならあのまま駅で一日中彼の帰りを待っていたいくらいだったけれど、彼が目の前にいない以上私はしっかり自分の理性を取り戻した。



…一度は無くしかけていたと思う。



だって彼と同じ電車に迷わず乗り込もうとするなんて、どうかしている。


あのまま彼が何も言わなかったら、私は彼の職場までついて行っていたかもしれない。


そうなれば私が今朝作り出した“偶然”はもう何の意味も持たなくなるだろう。


ていうか偶然を装って“今から学校に行く”なんて言っていたのに結局お隣さんが仕事に行くまで隣にいた私を、彼は何とも思わなかったんだろうか。



不思議な人だ…



こんなことを思うのは失礼だと分かっているけれど、我ながらここまで私の矛盾が浮き彫りになる中そのどこにも彼が指摘してこないことで私は彼はちょっとバカなんじゃないかと思ったりもしていた。

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