第77話

「さぁ?それは行ってみなきゃ分かりません」


なぜか強気な態度の私は、今彼の目に一体どう映っているのだろう。



私の下手くそな“偶然”を、彼はちゃんと信じてくれたんだろうか。


それとももうとっくに全てが狙って作り出されたものだと気付いているのかな。



ていうか“行ってみなきゃ分からない”って、今から学校へ行こうという人がそんなことを言うのはちょっとおかしいかな…?


自分の発言の矛盾点がもはや自分ではよく分からなくなってきていた私が少し目線を落として考え込んでいると、



「今何時だと思ってんだよ」



再びお隣さんの声が聞こえて、私はまたすぐにそちらに目をやった。


彼は真っ直ぐに私を見ていた。



「六時過ぎです。あと時間なら私さっきも言いましたよ?」


今日の彼はこのまま逃げる気はないのだと判断した私は、彼との間にある一メートルほどの距離を保ったままに落ち着いた声で言葉を返した。



「いくら何でも早過ぎるだろ」


「私が何時に登校しようが私の勝手です」


「絶対学校にはまだ誰もいない」


「だとしても私は私の好きな時間に学校に行きます」




…あれ?


なんか私、何気に普通に喋ってるし…



あくまでも自分の行動の自由を主張し続ける私に、返す言葉がなくなったのかお隣さんは「はぁっ、」とうんざりしたようなため息を吐きながら私から目を逸らした。



その瞬間、彼はもう何も言わずに歩き出すんだろうなと私はすぐに察した。


その直後予想通り私にまた背を向けて駅へと歩き始めた彼に、私は“やっぱりな”と思った。




顔を合わせることと言葉を交わすことはとても大切だ。


それらから得られる情報の量は計り知れないし、だからこそ行動の予想だってできてしまう。



でもそれは私だからだっていうのもあったと思う。



一年半以上も彼を見つめ続けてきて、この二日間だって彼のあの態度について考えすぎなくらいに考え込んでいた私だからこそ、彼の次に取る行動がこんなにも簡単に推測できたのだろう。



もちろん一緒にまた歩き始める気満々だった私も、すぐに相変わらず一メートルほどの距離を保ったままに彼の背中を追った。



彼はやっぱり私よりも歩くスピードは早いものの、何となくさっきと比べると遅くなっている気もした。



私と一緒に駅に向かうことに対して何か諦めのような気持ちにでもなったのだろうか。


だとすればさっきまでのあの早足はわざと?



考えてみれば一昨日駅からアパートまで尾行した時はさっきみたいに早足じゃなかったな…




…ま、もちろんそんなことだってこの私にしてみれば想定内。


なんなら足を止めて振り返ってくれたことの方が想定外だったくらいだ。



出だしは良好なはず。

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