第71話
まだ帰らないのかと思いつつも私が「うん?」と素直に返事をすれば、ソウちゃんはドアノブを掴んだままこちらに半身を向けるような形でまた振り返った。
そんなソウちゃんは割と真面目な顔をしていた。
「お前さ、うちの大学受験しろよ」
「…え?何、急に」
「急じゃねぇよ。前からちょっと思ってた。でもどうせお前のことだから、叔父さんに悪いとか何とか言って就職しそうだし」
「そりゃそうだよ。私これ以上あの人達にお世話になりたくないよ」
「……」
私に返す言葉が見つからないのか、ソウちゃんは依然ドアノブを掴んでこちらを振り返ったまま目線を落とした。
そんなソウちゃんの反応は、私からしてみれば少し意外だった。
だっていつものソウちゃんなら、間髪入れずに“世話になるも何もそれはおじさんの事故の示談金だろ”となぜか私に少し怒るから。
でもそんなソウちゃんもきっと、それに私が何と返すかも分かっていたのだろう。
確かに叔父さんは何の躊躇いもなくお父さんの事故を勝手に示談で終わらせたし、それで動いたお金もきっと私には想像もできないような金額なのだと思う。
叔父さんを経由しているとはいえ、それでも私だって今はそのお金で生かされているわけで、そしてその生活はまだしばらく続く。
そのお金がなきゃ、私は生きていけない。
…となれば、お父さんが死んで示談にしてもらったのはある意味ラッキーだったのかもしれない。
そのお金がなきゃ、私は親戚中をたらい回しにされていたかもしれないから。
…なんて、そんなことを本気で思うあたり、結局私だって叔父さんとしていることは何も変わらないんじゃないかと思う。
「…でもそれだけじゃないよ」
私のその言葉に、ソウちゃんは黙ったまま落としていた目線をこちらに上げた。
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