第70話
「えっ、帰るのっ?」
私も慌てて立ち上がりすでに玄関で靴を履いていたソウちゃんの背中にそう問いかけると、ソウちゃんはこちらを振り返らずにそのまま動きを止めた。
「……」
「ソウちゃん…?」
突然何も言わなくなったソウちゃんを不思議に思いながら、私もすぐに玄関へと足を進めた。
そんな私が依然こちらに背を向けるソウちゃんの真後ろに来た時だった。
「……帰るよ」
すごく小さな声で、ソウちゃんはやっと私のさっきの質問に答えた。
「そっか。まだそんなに遅い時間でもないし家も近いけど、じゃあ気をつけてね?」
何の気なしにそう言った私に、やっぱり背を向けたままのソウちゃんはフッと小さく笑いをこぼしたかと思うと、聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声で「うぜっ」と呟いた。
それをギリギリ聞き取ったけれどその言葉の意味までは分からなかった私が思わず「え?」と言えば、ずっと背を向けていたソウちゃんはバッと勢いよくこちらを振り返った。
「とりあえず角部屋には挨拶に絶対行かないって約束しろ」
突然話が当初に戻ったことに戸惑いつつも、私は「え?どっち?」と言葉を返した。
さっきは行っとけって感じだったのに、今度は行くなって…
「一人で行くなら俺も行くって言ってんだよ!だから行かねぇなら行かねぇで一人で行くんじゃねぇぞってこと!」
早口言葉みたいに似たような言葉を並べたソウちゃんに思わず笑いそうになりつつも、私がそれよりも気になったのはその声のボリュームだった。
「うん、わかった、わかったから!」
そう言って慌てるように両掌を向けた私に意味が分かったらしいソウちゃんは、またわざとらしく「はぁっ、」とため息を吐きながらこちらに背を向けてドアノブを掴んだ。
そんなソウちゃんに対して今度こそ帰るんだろうと思った私だったけれど、
「……なぁ、…コト、」
ソウちゃんは少し改まったように落ち着いた声で私の名前を口にした。
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