第69話
「うん…うるさいってことかも…」
「はぁ?これくらいでうるさいって…壁に耳でも押し当ててんじゃねぇの」
「まさか」
「ありえるだろ。気持ち悪りぃな」
「決めつけは良くないよ。それにさっきのソウちゃん、確かに声が大きかったもん」
お隣さんを庇うようにそう言った私が気に入らなかったのか、ソウちゃんは私から目を逸らすと小さく舌打ちをした。
「ソウちゃん…」
「……」
「ソウちゃんの家とこことでは壁の薄さが全然違うんだよ?おまけに一軒家じゃないから周りの人には常に気を遣って生活しなきゃ」
私が諭すようにそう言うと、ソウちゃんはボソリと「だるっ」と呟いた。
…さっきはこの部屋に馴染んできたなんて思ったけれど、やっぱりソウちゃんはこんな部屋には似合わない。
「どうせ隣はキモいオタクみたいな奴だろ」
「こらこら。そういう偏見丸出しの発言も良くないよ」
「何で俺が怒られるんだよ」
「悪いのはソウちゃんじゃん」
「それを言うなら男だって先に言わなかったコトが悪い!!」
まださっきの話に納得がいかないのか、ソウちゃんはまた少し大きな声を出した。
「てか平気で無視するような男だろ!?絶対ロクな奴じゃねぇわ!!」
「はいはい、分かったからとりあえず声のボリューム落とそうね」
「はぁっ…っ、たく…」
うるさくしちゃって、怒ってるかな…
私、また更にマイナスに落ちちゃったりした…?
彼の中での自分の印象が心配で仕方のない私は、それからしばらく彼の部屋がある方の壁をじっと見つめていた。
…やっぱり“運命”に不思議な力なんて何もない。
いくらその壁を見つめたって、当然今の彼についてのことなんて私は何一つ窺い知ることはできなかった。
「…てか相手にされてねぇのにしつこくすんなよ」
呟くようなボリュームで口を開いたソウちゃんに私が思わずそちらを見れば、ソウちゃんは少しムッとしていた。
一瞬隣の部屋のあの彼に対してそう言われたのかと思ったけれど、私を無視した相手が同じ学校の人だという勘違いはまだ継続されているらしく、ソウちゃんはもう彼の部屋のある壁を見てはいなかった。
「余計嫌われるぞ」
「さっきは次話しかけたら普通だとかなんとか言ってたのに…今日のソウちゃんはテンションも言ってることもコロコロ変わるんだね」
「……」
私の少し嫌味のこもったその言葉に黙ってしまったソウちゃんは、しばらくして「はぁっ…」とわざとらしく大きなため息を吐いた。
「…なんか冷めたわ」
「ん?コーヒー?」
「はあ?お前バカだろ」
「え?」
ソウちゃんはそれ以上は何も言わず、ムッとした顔のまま立ち上がり玄関の方へと歩き始めた。
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