第67話

そんな私の態度がそうさせたのか、ソウちゃんからは「はぁっ、」とうんざりするようなため息が聞こえてきた。



自分が話せと言うから話したのにため息を吐くとは何事だと文句を言ってやりたくもなったのだけれど、散々私に対して失礼な態度を遠慮なく表に出しつつもソウちゃんは「具体的にどう無視されたんだよ」と一応私の話を最後まで聞いてくれるつもりのようだった。



「私、ずっと話してみたかったの。だから挨拶してみたら、その人はこっちを向いた」


「うん」


「その場には私とその人しかいなかったしちゃんと目だって合わせたから、向こうは私が自分に話しかけたんだってことを絶対に分かってる」


「うん」


「…でも、何も言わずに行っちゃった」



“こんばんは”の後に言った“何が良かったですか?”というあのよく分からない質問はさておき、挨拶くらいは返してくれても良かったのに。



たった一度とはいえ挨拶をして返してくれなかったことで、私とあの人はこの先も偶然顔を合わせても挨拶を交わさない関係になってしまう気がしてならなかった。


挨拶もしないとなればお互いのプライベートな会話をすることなんてもちろんないだろうし、そうなれば接点も何もあったもんじゃない。



そしてそれが当たり前になってしまったらもう手遅れだ。


そこから関係を挽回できる自信なんてない。



この先そうなるかならないかは、きっと今の自分にかかっている。



そんな大事なきっかけを棒に振るなんて…


…いや、棒に振ったのはあの彼の方だ。



でもそれは仕方のないところもある。



だって彼はまだ私との“運命”に気付いていないのだから。



「目が合ったなら存在ごと無視って感じでもなくね?」


「でも目が合ったってことは今のは自分に話しかけたんだってちゃんと分かったってことでしょ?なのに、何も言わずに言っちゃったんだよ?」


「あー…」


「……」



ソウちゃんの言いたいことは分かる。


でも私のことをしっかりとその目で認識した上でされる無視は、やっぱり存在そのものを無かったことにされたみたいですごくショックだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る