第62話
それからまもなくして少し体を屈めるように顔を近付け始めたソウちゃんに、私は左手にあったマグカップを持ち上げてその胸にトンッと軽く押し当てた。
私のその行動に、こちらに近付いていたソウちゃんの動きは止まって閉じかけていた目もすぐにまたしっかりと開かれた。
「はい、ソウちゃんのコーヒー」
遠回しにキスをかわした私にソウちゃんは少し驚いたような顔をしていたけれど、それでもなんとか「…おう」と言いながらそのマグカップを受け取ってくれた。
それから私がマグカップを受け取ったソウちゃんをその場に残すような形で奥の部屋へ行って畳の上に座ると、ソウちゃんもすぐにこちらに来て私の右隣に座った。
…間違いない。
ソウちゃんは私が今キスをかわしたことをちゃんと分かっている。
そんなソウちゃんは次に何と言うんだろうと思いながら持っていたコーヒーを一口啜った私に、ソウちゃんはしばらく私を見つめたかと思うと思いついたように口を開いた。
「…え、てかお前、今拒否った?」
そのちょっと間抜けな物言いに私は思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出してしまいそうになったけれど、私はなんとかそれを飲み込んでソウちゃんの方へと顔を向けた。
今になって気付いたけれど、この部屋の最奥にある窓の方を向いて座る私とは違い、右隣に座るソウちゃんは体をしっかり私に向けるようにして座っていた。
「へ?」
「だから今さっき。俺のこと拒否ったよな?」
「そういうわけじゃないけど…」
「けど?」
「…そういう気分じゃない時もあるじゃん?」
「だからそれは拒否ったってことだよな?」
「それはっきりさせる必要ある?」
「え?いや?全然ねぇけど?」
思いっきり強がってそんなことを言ったソウちゃんに私は思わず笑いそうになったけれど、ソウちゃんがあまりにも真面目な顔をしているから私は今は絶対に笑っちゃいけないと自分に何度も頭の中で言い聞かせた。
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