第61話

「うん…そうだよね…」


「おう」


「バカみたいだよね、私…」


「え?いや、バカってことはねぇけどさ…女の一人暮らしなんだからもうちょっと危機感覚えろよっていう…」



バカっていうか、ガキっていうか、世間知らずっていうか…





さっきから俯くようにひたすらケトルの中の沸騰し始めたお湯を見つめる私を、ソウちゃんは泣いているとでも思ったんだろうか。



「コト?」


「……」


「…コト?」


「……」



気付けば何度も遠慮がちに名前を呼ばれていたことに気が付いた私だったけれど、正直それが今ので何回目なのかまではよく分からなかった。



それでも俯いたまま何も言わない私に畳が少し擦れるような音が聞こえて、それからトン、トン、と聞こえた足音にソウちゃんが立ち上がりこちらに来たのが分かった。




聞こえてるはずなのに何も言わないって何なんだろう。




「なぁ、コト?」


「……」



それでも言葉を投げかけられて、彼は一体何を思っていたのだろう。




それからすぐにカチッと音が鳴って、ケトルがお湯が沸いたことを私に知らせた。


それと同時に左隣に来ていたソウちゃんに顔を向けると、ソウちゃんはその声同様遠慮がちに私を見ていた。



「無視すんなよ…」


「ごめん、何?」


私はそう言いながらまた正面へ顔を向けると、ケトルを掴んで中のお湯を用意していたマグカップに注いだ。



「俺は怒ってるわけじゃねぇんだぞ?」


「うん。ソウちゃんは私のことを思って言ってくれてるんだよね、分かってるよ。それに私、怒られてるなんて思ってなかったし」


「ならこっち向けよ」


私の言葉に食いつくようにさっきよりも少し語気を強めてそう言ったソウちゃんに、私はまた黙ってゆっくりそちらに顔を向けた。



「……」


「……」


さっきよりもしっかり目が合ったソウちゃんは、黙ったまま私の目をじっと真っ直ぐに見つめていた。



その空気感にこの後の流れがなんとなく分かった私は、ソウちゃんの目を見つめつつもお湯を注いだ二つのマグカップのそれぞれの持ち手にそっと両手を添えた。

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