第49話
「あー…え、じゃあコト、準備ができたらすぐ出るのか?」
ソウちゃんがそう言ったのと同時に歯磨きを終えた私は、やっと振り返ったかと思うと「うん!もう行く!」と返事をしつつも予想通り浴室前にいたソウちゃんを半ば押しのけるように部屋に戻った。
「じゃあ俺も出なきゃなんねぇな…コーヒーくらい飲みたかったのに」
「鍵渡そうか!?全然ゆっくりしてっていいよ!?」
頭ではきっともう無理だと理解しつつも、私は急いで制服を着ながらまた時計に目をやった。
七時十五分…
それなら急いで駅に向かっても七時二十五分くらいか…
これはもう絶望的だ。
昨日のようにこれが仕事帰りならまだしも、朝はその時間に間に合わなければ会える可能性はかなり低い。
だって私はこれまでに、朝は七時過ぎのいつも同じ電車に乗る彼以外見たことがなかったから。
「…こんなとこで一人でコーヒーなんか飲んだって美味くもなんともねぇわ」
私の気遣いでしかない言葉にあっさりとそんな失礼な言葉を返してきたソウちゃんだったけれど、今の私にはそれに腹を立てる余裕もなかった。
「そっか!じゃあもう一緒に出よう!準備できたから!」
「…はいはい」
そう言って渋々上着を手に取ったソウちゃんは、さっき私の提案を断ったにもかかわらずなんだかまだここに居たそうな様子だった。
“まだ居たいなら居ていいよ”ともう一度言ってあげたいところだけれど、今は本当にそれどころじゃない。
ローファーに足を引っ掛けて急いで外に出た私とは対照的に、ソウちゃんはやっぱり渋々といった様子で靴を履いていた。
「ねぇ、ソウちゃん!急いで!」
「急いでるよ」
「もっとだよ!靴なんか歩きながら履けるじゃん!」
「は?履けねぇよ」
「履けるよ!こうやって、」
「てか今更だけどそんな早く駅に行って何かあんの?」
実践を交えて歩きながら靴を履くそのやり方を教えようとしていた私を無視するようにそう言ったソウちゃんは、なぜか少しムッとしていた。
「それも今は話す時間ないっ!」
迷いなくそう言った私に、ソウちゃんはやっぱりムッとしたままもう何も言わなかった。
ここまで急いでいるのに、ソウちゃんと会話を続けながらもしっかり玄関の鍵をかけた私は我ながらちょっと偉いと思う。
起きた時はあんなに寒さを警戒していた私だったけれど、部屋はおろか外の空気の冷たさすらも今は何も気にならなかった。
———…カンカンカンカンッ…!
先に階段を下まで駆け下りた私がすぐに後ろを振り返れば、ソウちゃんは依然ムッとした顔でカン、カン、とわざとらしくゆっくり階段を下りていた。
機嫌悪そうだな…
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