第48話

「———…ト、……コト、」




遠くから聞こえる私の名前を呼ぶ声に、意識を無理矢理たぐり寄せて目を開けるとそこにあった眩しさに私は思わずまた目をギリギリのところまで閉じた。



「おい、そろそろ起きろって」


「うん……」


いつのまに起きていたのか、ソウちゃんはもうとっくに布団から出て服を着ていた。



起き上がらなくても分かる。


この部屋、めちゃくちゃ寒い…



「今日は学校行くんだろ?」


「うん…行く…」


枕に顔を埋めてそう言った私の声はくぐもっていたけれど、ソウちゃんはしっかりそれを聞き取ったらしく「なら早く起きろよ」と依然布団の中にいる私を遠慮なく急かした。



「だってこの部屋めっちゃ寒いじゃん…」



天気は良いらしく、ソウちゃんの手によって開けられたと思われるカーテンの窓からは十二月とは思えないような明るい日が差し込んでいた。



「遅刻するぞ」


「遅刻———…っ、えっ…!!??」


さっきまで気になって仕方なかった部屋の寒さを気にも止めずにガバッと起き上がった私は、すぐに時計に目を向けた。



「安心しろよ、まだ七時になったばっかだか」


「ヤバいじゃんっ…!!!」


ソウちゃんの言葉を遮って大きな声を上げた私は、それからすぐに布団から飛び出してバタバタと洗面台のある浴室へと走った。


その間に「え?」と背後からソウちゃんの声が聞こえてきたけれど、私はそれを無視して浴室の中に入って急いで顔を洗った。


浴槽とトイレの間に設置されている洗面台はとても狭い上に床も足の裏を刺すように冷たくて、水道から出てくるのはもちろん想像を上回るほど冷たい水だったけれど、今の私はそのどれにもいちいち反応する余裕はなかった。



たしかに時刻はまだ七時十分だった。



でもそれは私には遅過ぎるくらいだ。






「高校のホームルームって八時半とかじゃなかったっけ」


その声は背後のすぐそばから聞こえて、ソウちゃんも私の後を追ってこちらにやってきたのがそちらを振り返らなくても分かった。


「うん!ホームルームは八時四十分から!」


「なら余裕だろ。さっきも言ったけどまだ七時になったとこだぞ」


「分かってる!でもいつもならもうとっくに駅にいる時間だもん!」


「お前普段そんな早く学校行ってんのか…」


「違うよ!駅だってば!」



何かと縁があったあの人改め運命で繋がっていた今やお隣さんであるあの彼を、私は今日だってもちろん朝から駅で見送るつもりだった。


いつも七時頃の電車に乗って仕事に行くことを考えれば、今の時点で七時を過ぎているのは致命的過ぎる。



昨日の洗剤のチョイスといい寝坊といい、私は運が良いのか悪いのか分からない。




「…駅?」


「そう!私は七時までに駅に行きたかったの!」


会話を続けつつも振り返る余裕のない私は、歯ブラシを手に取りながら浴室前にいるであろうソウちゃんに言葉を返した。

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