第47話
「えー?本当に?」
「本当に。“欲しい”とか“買ってくれ”とか俺一回も言ったことねぇもん」
「とか言いつつどれもしっかりやり込んでたくせに」
「まぁな。でもそれは暇だったからだよ」
それからソウちゃんは、自嘲的に少し笑いながら「土日にいつも暇な奴なんて俺くらいなもんだった」と言った。
その意味が何となく分かった私は、思わず何も言えなくなった。
「…金があれば幸せなわけじゃない」
「……」
「だからアイツだって刺激を求めてたんだろ」
それって…うちのお父さんに…?
「…それは…何て言えばいいのかよく分かんないけど…」
「いいよ、…何も言わなくて」
ソウちゃんはそう言って、私を抱きしめる腕に少し力を入れてさらに身を寄せた。
ソウちゃんは寂しかったのだと思う。
詳しいことは分からないけれど、ソウちゃんのお母さんがうちのお父さんと関係を持っていたということは少なからずソウちゃんのお父さんとは上手くいっていなかったわけで…
でも今も二人は婚姻関係にあることを思えば、うまくいっている、いっていないのそんな単純な話でもないのだろう。
仕事で家をあけることが多かったうちのお父さんのことを思えば私も他の人よりは寂しい思いをしてきた方だとは思うけれど、きっと私とソウちゃんとでは家族で過ごす時間が少なかったというその意味は少し違う。
その埋め合わせをするかのように最新のゲーム機を与えられるのは、どれほど寂しいことなのか。
私には想像もできない。
「…ソ」
「コト、」
「…うん?」
こういう時は何と言うべきなのか。
それが咄嗟に思いつくほど私は人生においての経験値が豊富ではなく、それ以上に私自身のどこを取ってみても乏しい気がしてならない。
でも、こういう時ソウちゃんが私に何かしらの言葉を求めていないことを私はちゃんと分かっていた。
「…もっかいしよ」
「…うん」
言葉なんかを使うよりも、黙って肌に触れる方が楽で相応しい時もある。
それが慣れ親しんだものならなおさらだ。
ソウちゃんは再び私を抱き終えると、また私を胸の中へ抱き寄せて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます