第46話

「今もそうだけど、昔は特にお金持ちなソウちゃんが羨ましかったなぁ」


呑気な私のその言葉に、ソウちゃんはボソリと「どこがだよ」と呟いた。


その声には苛立ちがたっぷり含まれている上にどこか他人事のようで、もちろん私にはソウちゃんがそんな反応をすることは分かっていたから特に驚きや焦りもなかった。



「使わなくなったゲームとかうちによく持ってきてくれてたよね」


「コトん家って何もなかったし」


「そうそう!でもソウちゃんの持ってくるのってどれも男の子っぽいのばっかりで私正直ちょっとうんざりしてたんだよね」


私が冗談でそう言えば、ソウちゃんは間髪入れずに「おい」と短い言葉でツッコミを入れた。


ソウちゃんのその期待通りの反応に、私は思わず「あははっ、」と声を出して笑った。



「別に好きで金持ちの家に生まれたわけじゃねぇし」


笑っていた私とは対照的に、ソウちゃんは何だか少しムッとしているようだった。


でもそれも私には想定内だった。



「お金って大事だよ?」


「…知ってる。それでも俺は昔からコトの家の方が羨ましかったよ」


「え?嫌味?」


「んなわけねぇじゃん。おじさん、いつもコトのことすげぇ大事そうに見てたし」



ソウちゃんの言う通り、たしかにお父さんは生前私にとても甘かった。


でもそれは私がそうだったようにお父さんにとっても私だけが唯一の家族だったからで、その上私が娘だったから尚更だったのだと思う。



私が大きくなるに連れてお父さんの仕事の時間は増えていって、狭いとはいえ一人で家にいることに寂しくなることもあったけれど、それでもお父さんから受ける愛情は何も変わらなかった。



…でも、当たり前だけれどその愛情はお金には直結しない。


ないものはないし、生活水準はどうやったって変わらない。




ただ、うちにお金の余裕があればお父さんは事故に遭うことなんてなかったんじゃないかと考えたりはする。



“その時そこにいなければ…”…なんて、今になってそれを考えたところで何がどうなるわけでもないのだけれど、私はこの六年で数え切れないほどにそれを考えた。


でも結局、どれだけ考えたってお父さんは戻ってこないことはもちろん分かっている。




「俺は最新のゲーム機なんて別に欲しくなかった」


ありえることのなかった“今”を想像してぼーっとしていた私に、そんなソウちゃんの寂しそうな言葉が届いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る