第45話

「おじさんも俺の母親も、俺らがこんなことしてるって知ったら驚くだろうな」



ソウちゃんのその言い方は嫌味たっぷりで、どこか二人を嘲笑うかのようなニュアンスが含まれていた。



「それは驚くどころじゃないだろうね」


「いつか言ってやりたいよな」


「えっ、それはやめようよ。なんか恥ずかしいから」




ソウちゃんと過ごした昔のことを思い返してみれば、記憶は断片的だけれど間違いなくそのどれもが場所は必ず私とお父さんの住んでいたアパートだった。


ソウちゃんのお母さんはソウちゃんを連れてよくうちに来ていたことは何となく覚えているけれど、それ以外のことなんてあまりよく覚えてはいない。



それくらい昔から、ソウちゃんはいつも私の隣にいた。



お父さんが死んでその場所を無くした私をいつも笑顔で迎えてくれるソウちゃんのお母さんは優しくて綺麗で、…だから正直、お洒落とかにも無頓着だった私のお父さんとそういう関係だったというのは今でも信じ難い。


でも頻繁にソウちゃんのお母さんがソウちゃんを連れてうちに遊びに来るそれらしい理由なんて私には思いつかなくて、だから二人の本当の関係性をソウちゃんに聞いた時は否定もできなかった。



「改めて聞くけど、二人がそういう関係だったから私とソウちゃんは仲良くなったんだよね?」


「コトは初めて会った時のこと覚えてねぇの?」



そう言われて初めて、私はソウちゃんと何歳からの付き合いなのかを知らないことに気がついた。



「初めましてはさすがに覚えてないなぁ」


「まぁコトはめちゃくちゃ小さかったしな」



でもそれ以上になんだか懐かしくもなった。


よくうちの狭い部屋でゲームとかしてたなぁ…



「でも昔のことはぼんやりだけど覚えてるよ」


「へぇ」


「ソウちゃん、昔の昔はこんな優しくなかったよね」


断片的な記憶は、それでも小学校低学年と高学年でそこにいるソウちゃんの印象の違いくらいははっきりと分かるものだった。



「おう、俺昔はお前のこと大嫌いだった」


「ははっ、傷つくなぁ」


「昔はな?今は違ぇよ」


「フォローになってないよ」


「…でもアイツのことはその時から今もずっと嫌い」


ソウちゃんの言う“アイツ”は、ソウちゃんのお母さんのことだ。



それに対して“どうして?”なんて聞いたことはない。


…ていうか、聞けない。


そこにはソウちゃんのお母さんと不倫関係にあったらしい私のお父さんが大きく関係していそうだし、それをその娘である私が“どうして?”なんて聞くのはちょっと無神経すぎる。



だから私は、「そっか」と当たり障りのない相槌を打つことしかできなかった。

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