第43話

「明日からソウちゃんがいないとなると今よりもっと寒く感じそうだな」


「毎日来てやってもいいけど」


「あー…いや、遠慮しとく」


「その言い方は遠慮っつうより来んなに聞こえんだけど?」


「あははっ、バレたか」


私が小さく体を揺らして笑えば、私を両腕で抱き寄せていたソウちゃんはそのまま私を仰向けにするように馬乗りになった。


それでも依然私の首筋に顔を擦り寄せるソウちゃんは、その距離を保ったままに少し掠れた声で「なぁ、コト…」と呟いた。



それが何を意味するのかをちゃんと分かっている私は、そんなソウちゃんを受け入れるために「うん」と小さく返事をした。






私の服の中に入ってくるソウちゃんの手は、布団に入ってしばらく経っていたからなのか冷たくはなくて、まるで私の体のその箇所の形を確かめるかのように優しく動いていた。


私は目を閉じてその動きを感じながらも、ソウちゃんに明日のことを断りそびれたな…なんてことをぼんやり考えていた。



「声出したら隣に丸聞こえだな」


「引っ越し早々それは困るよ」


「隣どんな奴だった?」


ソウちゃんの言うそれはきっと私がさっき嘘をついたせいであの人のいる左隣ではなく右隣の私もまだ見ぬ住人のことを指していたけれど、私は今更正直に言う気にもなれなくて「若い人だったよ」と適当なことを言った。



「じゃあ今日はちょっと抑えめにヤるわ」


「うん」



ソウちゃんはそう言ったけれど、実際のところいつもの行為と何が違うのかは私にはよく分からなかった。


あれだけお互いに“寒い、寒い、”と言いつつも行為が進めば布団の中で当たり前のようにお互い服を脱いでいて、それなのに寒さなんて何も気にならなかった。


それに加えて、息もいつも以上に乱れている気がした。





「———…っ、コトっ…力抜けよっ…」



私の真上で余裕なさげにそう言ったソウちゃんに、ソウちゃん以上に余裕のなかった私は“わざとじゃない”という意味を込めて頭を左右に振った。



時折「はっ、」と短く息を吐きながらも、とにかく声が出ないように私は必死になって何度も何度も迫り来る快感の波を逃し続けていた。





ソウちゃんはいつだって優しく私を抱くのに、今日の私はなぜか心臓に棘が刺さったみたいに終始胸がチクリと痛んでいた。


それは言い換えると罪悪感に近いようなものだったけれど、それがこうしてソウちゃんに抱かれているのに違う人のことを考えているという意味でのソウちゃんに対してのものなのか、“縁”ではなく“運命”だなんて思っておきながら他の人に抱かれているという意味での隣の部屋のあの人に対してのものなのかはよく分からなかった。



後者にいたっては一方的すぎて我ながらちょっと先走りすぎだとも思うのだけれど、勝手に決めつけた“運命”という関係値の力は思ったよりも大きくて、何がどう転んだって“だって私達の繋がりは運命だったんだから”と思えばその全てに辻褄が合う気さえした。





変態?ストーカー?勘違い?



何でもいいや…



とにかく早く明日になってその顔が見たい…

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