第41話

「———…いつまで気にしてんだよ」



布団に入っても自分の失態に落ち込み続ける私に、ソウちゃんは呆れたようにそう言った。


「だって…!これからコインランドリー生活をする私自身がそんなことにも気付かないなんてありえないじゃん!しかもコインランドリーとは無縁なソウちゃんでも気付けたことなのに…!」



あのおばあちゃんを含め下の階の挨拶を済ませた人達はみんな笑顔で受け取ってくれたけれど、内心は思っていたんだろうな。



“いつ使うんだよ、これ”って…




「まぁな?でも挨拶で洗剤って定番だし」


「えっ、ソウちゃん昼間と言ってること違う!」


「え?そうだっけ?」


「そうだよ!!昼間は今時引越しの挨拶が洗剤はどうのこうのって言ってたじゃん!!」


「あー…まぁいいじゃん、同じアパートに住んでるからってどうせこの先これ以上仲良くなることなんかねぇだろ。挨拶なんか所詮建前だし。みんなそれも分かってるよ」




そりゃあ私だって、顔を合わせたら挨拶を交わす程度の人達に対して使う機会のない洗剤を渡してしまったことなんて特に気にしていない。




ただ、あの人は違う。



あの人だけは例外だ。



会う機会があるのはもちろん私はこれからもっともっと彼のことを知っていくつもりなんだから、こんな失態は絶対に許されない。


使えない上に無駄に重い粉末タイプだなんて…



あの人があれだけしつこく“いらない”を繰り返していたのは、もしかするとそういう意味だったのかもしれない。


だとすれば、たしかにあれはいらなかった…




「どうせみんなもうお前が挨拶に来たことなんかとっくに忘れてるよ」


「ソウちゃん、ひどい…」


「忘れられた方がいいだろ。すんげぇ変態が住んでたらどうすんだよ」


「変態?」


「そうそう。“女子高生が越してきた!”とか言ってキモい妄想する奴とかもいるかもしれないし、下手すりゃストーカーとかにもなりかねないだろ」


「……」




それで言うなら“すんげぇ変態”はきっと私の方だ。



もちろんそれは隣の部屋であるあの人に対して限定だけれど…



…でも気をつけなきゃ。


あの人にそう思われては困る。

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