第40話
「お前もしゃがめよ」
「いいよ、狭いし。私先に出るから、ソウちゃんはゆっくり入っ」
「だーかーらー!そういうのやめろって言ってんだよ!とりあえずしゃがめっつうの!」
一際大きな声で私の声を遮ったソウちゃんは、そのまま私の右手首を引いて無理矢理私をしゃがませた。
「ほら、二人で入れば少ないお湯でもそれなりになるだろ?」
「うん…」
お互いに足をギュッと折って入らなければならないこの浴槽はやっぱり二人で入るにはちょっと無理があるほど窮屈で、
「ははっ、マジで狭いしボロいなぁ、ここは!!なんならお湯が出ることにちょっとありがたいとか思っちまったわ!!」
それでもソウちゃんがそう言って楽しそうに笑うから、なんだか私にも“まぁいっか”の精神が働いて一気に体から力が抜けていくのが分かった。
ソウちゃんにはやっぱりここは不釣り合いだなぁ…
それなのにずっと無邪気に笑い続けるソウちゃんに、私は自分の頭にあった遠慮や申し訳なさが至極どうでもいいことだったんだと思えて少し気が楽になった。
しっかりお湯に浸かったおかげで体はそれなりに温まり、部屋へ戻った時にはその寒さもそこまで気にならずに済んだ。
「俺今日ずっと思ってたんだけどさぁ、」
そう話し始めたソウちゃんは、さっきご飯を食べるためにテーブル代わりにしていた段ボールを足で部屋の隅に追いやっていた。
足でやるんだ…
でもそれは私がさっき「布団敷こっか」と言ったのが理由だろうから、私は文句を言ってやりたい気持ちをぐっと飲み込んだ。
「なに?」
「……いや、やっぱいいわ」
「えっ、なに!?」
「知らない方がコトのためだった」
「それを言うならもう遅いと思う。めちゃくちゃ気になってるよ、私」
私のその言葉に、今度は敷布団にシーツを被せてくれていたソウちゃんの手が止まった。
「…ここって洗濯機置く場所なくね?」
「え?うん。大丈夫だよ、近くに大きいコインランドリーあるじゃん」
再び手を動かし始めたソウちゃんは、「いや、そうじゃなくて」と言いながら敷布団のファスナーをジジジッと最後まで閉めた。
「コインランドリーなら洗剤って自動投入だろ?持ち込みの洗剤なんかいらなくね?」
「………あ、」
ソウちゃんに言われるまで気付きもしなかったそれは、お隣さんであるあの人との接触の初手にかなり重きを置いていた私にとって致命的すぎる失態だった。
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