第38話

今日泊まると言い出したのはソウちゃん本人で、一緒にお風呂に入ろうと提案してきたのだってソウちゃんで、この部屋のお風呂に入ると言ったのだってもちろんソウちゃんだ。



それならもうこれ以上わざわざそれを拒否して揉めるのも嫌だった私は、ご飯を食べ終わり「風呂入るか」と言ったソウちゃんに素直に「うん」と返事をして浴室へ向かうソウちゃんの後をついて行った。



…とは言ってもこの部屋は極端に狭い。


私達はたった数歩歩いただけであっという間に浴室のドアの前にたどり着いた。



私の部屋なのにソウちゃんが私より先に浴室に向かうような形となったことに多少の違和感は感じつつも、私は流れに身を任せるようにドアの目の前で足を止めたソウちゃんの背中を見つめた。



「…ここで脱ぐしかねぇのか」


「うん、脱衣所がないから。あとたぶん浴室の床もめちゃくちゃ冷たいよ」


「あー…」


少し不満そうな声を漏らしたソウちゃんに“それ見たことか”と言いたくなった私だったけれど、ソウちゃんは「了解」と一言言うとすぐに上着を脱いで着ていたパーカーもガバッと脱ぎ始めた。




「ほら、お前も早く脱げよ」


「え、あ、」


戸惑う私を気にすることなく、すでに上半身裸になったソウちゃんは浴室に入ると浴槽の真横の壁に設置されているシャワーを勢いよく出してまた私のいる部屋の方へ戻ってきた。



「ソウちゃん…」


「ん?…あ、水道代がもったいねぇとか言うなよ?お前が寒い、寒い、言うから入る前にシャワーでお湯出してやってんだから」


「いや、それはソウちゃんのことを思って…」


「俺?俺は平気だよ」


「…ソ」


「なぁ、もう早く入ってシャワーでお湯浴びようぜ。ここにいたって体温まんねぇよ」



そう言ったソウちゃんは時折「寒っ」とボヤきながらも次々に残りの服を脱いでいて、だから私ももう何も言わずに自分の着ていた服に手をかけた。



一枚、一枚、と服を脱ぐたびに、この部屋の冷えた空気が私の肌に警鐘を鳴らした。


それを無視して服を全て脱ぎ終わった私の手を、同じく服を脱ぎ終えたソウちゃんは躊躇いなく掴んでそのまま浴室へと飛び込んだ。



それは本当に“飛び込む”という表現がぴったりなほど勢いが良くて、事前にソウちゃんがシャワーでお湯を出してくれていたおかげでその狭い空間は湯気でほんの少し曇っていて空気は部屋よりも断然暖かかった。




「あったかい…!」


私が少し感動してそう言うと、ソウちゃんは何も言わずに私の手を引いたまま狭い浴槽に入って私もそのままその中に連れ込んだ。


その瞬間浴槽の中にひたすら流れていたシャワーのお湯が足に直接当たって、冷えていた足先が一気に解れていく感覚がした。

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