第37話
「浴槽って言っても人一人膝を折って入るくらい狭いし、ユニットバスだから洗う時もその浴槽の中で洗うことになるんだよ?」
「いいよ?」
「しかもたぶんここのお風呂場ってこの部屋以上に寒いし、掃除はしたけどまだまだ汚いし、…とてもじゃないけど毎日広いお風呂に入ってるソウちゃんには苦行だよ」
「そんなことねぇよ。コトと入るなら気になんないし」
「でも…ソウちゃんの家と比べるとちょっと笑えないレベルだし、さすがにあのお風呂に入らせるのは申し訳ないよ。銭湯が近くにあるから、それならあとで一緒に」
「コト、」
二度目となるソウちゃんのそれは相変わらず優しくて、やっぱりその口元は笑っていた。
「やめようぜ、そういうの」
こういう時は怒るわけじゃなく優しく咎めるソウちゃんの言葉は、これでもかというくらいにストンと私の心に落ちてくる。
「…え?」
「俺らの住む世界が違うみたいな言い方、やめよ」
「…違うよ?」
「違わねぇよ、何も。俺はコトと同じ世界で生きてるし、コトだって俺と同じ世界に生きてんだよ」
「……」
…本当にそうだろうか。
ソウちゃんは裕福でキラキラしていて、こんな私にもそうやって分け隔てなく接してくれて、…
この人の前世は天使だったんじゃないかと本気で思ったりしたこともあったのだけれど、それでいうなら私って何なんだろう。
その辺の石ころと何も変わらないんじゃないかな。
天使と石ころならその差は歴然。
同じ時代を生きているという意味ならばそれはその通りだけれど、とてもじゃないけど住む世界が同じだなんて到底思えない。
「…どっちにしてもここの浴室は狭すぎるよ」
「立って入れば何も問題ねぇよ」
それ以上この話題について話す気はないのか、ソウちゃんは簡単にそう言ってのけると置いていた箸に手を伸ばしてまた冷えたお惣菜を口に運んでいた。
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