第28話

こんなことなら洗剤じゃなくて見た目の可愛いクッキーとかにするんだったな…



このアパートは通路に沿って小窓も何もないから、部屋の電気がついているのかどうかすらもこちら側からは確認できなかった。



でも私はさっき確かにあの人がここに入って行くのをこの目でしっかり見たわけだし、その人の部屋のドアの前まで行って耳をすませてみればかすかにテレビのような音も聞こえてきた。





間違いない、



彼は確実にこのドアの向こうにいる。





ここまでくれば痛いくらいだった胸の高鳴りだって心地良く思えてきて、私の中には躊躇いなんてものはもちろん微塵もありはしなかった。



でも私は、これまでに彼との接点を持ちたいとその機会を伺っていたわけでもない。


なのにどうして今の私はこんなにも彼との接触に前のめりになっているのだろう。


まるで私はこの時をずっと待っていたみたいだ。




でもそんなよく分からない展開も、これは“縁”ではなく“運命”だったのだと思えば不思議と納得がいった。







———…ピンポーン…!



さっき同様、インターホンの音はこちらにも漏れて聞こえるほどに大きな音を発した。


何度聞いてもそれをバカみたいに大きいと思うのは私だけだろうか。


部屋の大きさに不釣り合いすぎてすごく不愉快だ。



…でも、今ばっかりは私もそれどころではない。


今の私にはその大きさよりも彼の部屋でその音が鳴り響いたということそのものの方が重要だった。



聞き逃す方が難しいそれに、私は少なからず感謝もした。



インターホンの音が完全に鳴り終わったその直後、部屋の中からダンッダンッと明らかにこちらに近付く足音が聞こえて私は思わず粉末洗剤を持っていた両手にグッと力を入れて息を止めた。



…なのに、




「……」



「……」




———…え?




これは一体どういうことだろう。




しばらく待ってみてもドアが開けられる気配はなさそうだし、中からは何の声も聞こえない。



ただやっぱりテレビのような音は微かに聞こえていた。






———…ピンポーン…!






痺れを切らした私はもう一度インターホンを押してみたけれど、やっぱり応答は何もなかった。

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