第27話
「…あれ?コト…」
「もう、ソウちゃん!いくらこんなボロアパートだからって玄関の鍵は閉めておかなきゃ危ないよー?」
「え?あぁ、おう…てかコト、」
「あ、違うか!“こんなボロアパートだから、”だよね!…いや違う!こんなボロアパートに空き巣や泥棒に入ろうなんて思う人いるわけない!あははっ、絶対どの部屋の人もお金なんてあるわけな」
「コト!」
謎に高いテンションで一人楽しそうに話す私を、ソウちゃんは割と真剣な声色で名前を呼んで話すのをやめさせた。
「へっ?」
「何やってんの…」
そう言ってソウちゃんが指を差したのは、私が今袋から取り出して両手で持っているあの挨拶用の粉末洗剤だった。
「ん?何って、」
「てか飯どうしたよ、お前」
「…あ、忘れてた…」
「はあ?」
「ごめん、これだけ届けたら買ってくるね!今ちょうど帰ってきたから」
そう言ってまた玄関の方へ向かった私に、ソウちゃんは背後から「どこの部屋?」と言った。
これは言えばまた面倒なことになりそうだな…
「お隣さん」
「隣…って、えっ、」
そう言いながら慌てて立ち上がるような畳の擦れる音が聞こえて玄関から後ろを振り返れば、ソウちゃんはやっぱりその場で立ち上がってこちらを見ていた。
「違うよ、こっちじゃなくてこっちの人」
私はそう言って、あの彼のいる左ではなく右の壁を指差した。
そんな嘘をついたことに対して、私の中に罪悪感のようなものは不思議と全くなかった。
ついさっき縁を超えたばかりである彼との繋がりをいまだに“これは私だけの密かな楽しみであり生き甲斐だ”と思っていることが、私に嘘をつく罪悪感を抱かせなかったのかもしれない。
もしくは、ソウちゃんに嘘をついてでも今は邪魔をされたくなかったのかもしれない。
「一緒に行ってやろうか?」
「ううん、平気!すぐそこだし!」
「…何かあれば大声出せよ?」
「うん!ソウちゃん、ありがとう!」
「あと次こそ飯忘れんな」
「はーいっ!」
依然浮かれる私とは対照的にソウちゃんはほんの少し納得していなさそうな顔をしていたけれど、私があっけらかんとしているからなのかそれ以上何か言うことはなかった。
———…ガチャンッ…
「…っ、ふぅ……」
玄関のドアを閉めて一息ついた私は、覚悟を決めるような面持ちで目的である左隣の部屋のドアへと目をやった。
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