第24話
とはいえ夕方の人の多い駅の中で茶色い作業着で歩く彼は少し浮いていて、その姿を見つけるのはなんとも容易かった。
でもそれは実際のところ浮いていたわけではなく、きっと私が彼を“知っていた”からだと思う。
それをきっかけに、私は彼がこの駅に帰ってくる時間を知った。
だからってその時の私は今のようにわざわざその時間にこうして駅に行こうとはしなかったけれど、私達の“縁”はそれだけでは終わらなかった。
他にも私達はよく行くコンビニも同じで、
そこで顔を合わせる頻度を考えればコンビニに行こうと思うタイミングすらもきっと私達はほとんど同じで、
一度だけ私が二十時を過ぎてその駅に帰ってきた時にも私達は偶然駅で会った。
残業なのか何なのかはよく分からないけれど、ただでさえ私の帰りがこんなに遅くなることは珍しいのにそれに彼の帰りが遅くなった日が重なり駅でまた会うなんて…
人が聞けば単なる偶然も、私にとっては何か意味のあることのような気がした。
そしてそれを“縁”という言葉で表現するのが私にはすごくしっくりきた。
それから私は、いつのまにか叔父さんの家が落ち着かないからではなく彼に会うために朝早く家を出るようになり、
十八時には必ずその駅のホームで彼の帰りを待った。
彼の帰りが十八時より遅い日はたまにあって、そんな日は帰ってくるまでひたすらベンチに座って仕事帰りの彼を一方的に出迎えた。
それでも大体十八時の電車で帰ってくるから、きっと終業時刻は十七時とか十七時半とかなのだろう。
それからコンビニにだって、私は買うものなんて何もないのに前よりも頻繁に出向くようになった。
もうこうなってしまえばこれは“縁”というよりも私自身がそれを作り出していると言っても過言ではないけれど、正直そんなことはとっくに分かっていた。
この世に縁なんてものはなく、全ては結果論でしかないということ。
会えたから縁と言っているだけでそれは自ら繋いでいくものだし、繋ごうと意識しなければきっと簡単に切れてしまうということ。
そして今、十八時を過ぎているにもかかわらず焦りの中に期待があるのは、私はきっといまだに彼との繋がりを“縁”だと思いたいからだろう。
これで彼がいたらそうだという証明になるわけじゃないし、なんなら残業か何かで少し遅い電車で帰ってくることがあることを知っているあたりを思えば私は少し自分のことをズルいとも思う。
でもこれは縁なのか、縁じゃないのか、という一種の賭けのようなものが私には楽しくてしょうがなかった。
そして私はそれを間違いなく“縁”にしたかった。
そんな生活が、もう一年半以上も続いている。
今更この全てを捨ててこの街を離れるなんてできるわけがない。
私がこの街だけは譲れなかったのは、ソウちゃんがいるからでも今の高校に通える距離だからでもない。
私はただ彼とのこの“縁”を繋いでいたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます