第23話
私の中に響く心臓の激しい音の大半は焦りで、でもその中にはほんの少しだけ期待も混ざっていた。
———…彼とは何かと縁があった。
私がそれに気付いたのは高校に入ってすぐのこと。
まず一番の大きなきっかけとなったのは、お互いの最寄駅が同じだったこと。
ヒロくんの存在もあって私は叔父さんの家にいるのがどうしても落ち着かなくて、高校に入ってからは毎朝六時半にその駅に向かって家を出ていた。
かと言って早く学校に着いたところですることもない私は、駅でボーッとしながら毎日時間を潰していた。
そんなある日、私は彼を見つけた。
四月の朝はまだかなり寒くて、私の座るベンチから数メートル離れたベンチに座る彼は薄汚れた少し大きめのダボッとした茶色の作業着を着ていて、黒のネックウォーマーに寒そうに顎を埋めて目を瞑っていた。
目を瞑っていたんだからもちろん私は彼と目が合ったわけでもないし、顔だって下半分は隠れていたんだからその時はよく見えはしなかった。
それが毎日続いたことで、気付けば私はその人から目が離せなくなっていた。
それも寒さのせいなのか両手はいつも作業着のズボンのポケットへ入れられていて、座り方から判断するにその人はなんとも育ちが悪そう…というのが、私の抱いた正直な第一印象だった。
彼は毎日同じ時間に同じベンチに座っていて、七時過ぎの電車に乗ってどこかへ行く。
まぁ作業着であることからしてその行き先は大方職場で間違いないのだろうけれど。
それからしばらくして、私には彼に“縁”を感じる出来事があった。
その日は高校の友達と放課後教室に残ってダラダラ喋っていたおかげで、その駅に着いたのはちょうど十八時くらいだった。
その時も私は駅のホームで彼を見つけた。
朝以外で彼を見かけるのはその時が初めてだった。
そりゃあ朝この駅から仕事に行くのだから仕事が終わればこの駅に帰ってくるのは当たり前のことで、それで言うなら私だって同じことを毎日繰り返している。
でも、自分の帰りの遅くなったそのタイミングで彼を見つけたことが私にはなんだかとてもすごいことのように思えた。
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