第22話
「こっちの角部屋の人が若い人らしいんだけど過去に人を殺したんだとか何とかって、」
「はあ!?」
「いやっ、でもそのおばあちゃん本人も噂だって言ってたし、挨拶しても返さなくて愛想が悪いとかなんとかでその人とはろくに話したこともないような感じの言い方で、」
「なら何でそのばあちゃんはそんな噂話を知ってんだよ」
「知らないよ、そんなの…!!でも大して面識もないらしいからこそ根拠のない噂でしかないんだろうなって私は思ったんだもん!!」
「でもそれが怖くてお前は俺に明日ついて来いって言ったんだろ?」
「そうだけどっ…それは念の為っていうか…そんな話聞いたら初対面はさすがにちょっと怖いなって思うじゃんっ…」
「……」
「……」
まだ顔すらも見たことのないお隣さんの単なる噂話に、私達がどうして揉める必要があるんだろう。
「…男?…なんだよな?隣の奴」
「…うん、そうらしいけど…」
「…大丈夫かよ、それ…」
「だから根拠のない噂なんだってば」
「それを噂だって言い切れる根拠だってねぇだろって」
「それはそうだけど…でも若い子って言ってたし、それならじゃあいくつの時に人殺したんだって話になるじゃん」
「ばあさんからすれば何歳でも若いだろ」
「私を見てそう言ったんだから年代で言えばたぶん私達と大して変わらないはずだよ」
「たぶんって……」
「それに人を殺したことのある人がこんなところで普通に生活なんてできるわけないじゃん」
そう言いながら奥の部屋の時計にチラッと目をやれば、時計の針はちょうど十八時を差していた。
っ、やっば…!!!
「とりあえず私はちょっと出てくるから!!続きは帰ってから話そう!!ね!?」
「はぁ…はいはい…帰りに飯忘れんなよ」
「うん!!いってきます!!」
「おう」
それからすぐにドアを閉めて階段を駆け下りた私は、そのまま駅を目指してとにかく走った。
正直私は、そんなにも急いでどこに何をしに行くんだとソウちゃんに聞かれなくて良かったと内心ホッとしていた。
話したところできっとソウちゃんに理解をしてもらうのは難しいだろうし、私達は確かに恋人同士ではないけれどなんとなくそれは言わない方がいいことのように思えたから。
家を出る時に十八時になっていたんだから、今日はもう間に合わないかもしれない。
わざわざ上着を取りに帰ったにもかかわらず、夢中で走るせいで寒さなんて全く気にならなかった。
むしろ上着のせいで体が重く感じてスピードが落ちているようにすら感じてしまう。
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