第21話

———…ガチャッ…



自分の部屋の玄関のドアを開けると、奥の部屋であぐらをかいて座っていたソウちゃんがすぐにパッとこちらを振り返った。


その手には携帯が持たれていたところを見る限り、どうやら携帯をいじって私の帰りを待っていたらしい。



「え?早くね?」


「いや、上着取りに来ただけ。これからまた出るよ。挨拶だけ済ませたんだけどほとんどいなくて…あんまり遅いのもあれだから、できなかったところはまた明日行ってみるね」


そう言いながら靴を脱いで上着を取るためにソウちゃんのいる部屋の隅の段ボールの元へ行く私を、ソウちゃんは「へぇ」と言いながら目で追っていた。



「両隣はどんな奴だった?」


「いや、どっちもいなくて…ていうか二階は三部屋とも誰もいなかった。ソウちゃん、やっぱり明日挨拶行くの付き合ってくれないかな?二階は私以外みんな男の人なんだって」


段ボールから上着を取り出した私は、その場で立ち上がりソウちゃんに背を向けるようにしてその上着を羽織った。


「へぇ…まぁそれはいいけど…さっきはいいって言ってたのに急にどうしたんだよ」


その言葉に後ろを振り返れば、ソウちゃんはあぐらをかいたままこちらを見上げていた。



「この真下はおばあちゃんだったんだけどね、その人に怖いこと言われちゃって」


「…怖いこと?」



…あ、


今は時間がないのについつい話し始めちゃった…



私が挨拶に行っている間にソウちゃんによって取り付けられていた壁の時計に目をやると、時刻はもう十七時五十分だった。


やばっ…!!



「帰ったら話すよ、とりあえず私ちょっと行ってくるから!」


私はそれだけを伝えるとすぐに玄関へと戻り、靴に足を引っ掛けるようにして玄関のドアノブを掴んだ。



でも、



「ちょっと待てって…!!」



急ぐ私をソウちゃんは遠慮なく後ろから腕を掴んで引き止めた。



「っ、ソ」


「気になるだろ、今話せよ」


「うん、分かってるよ!?だから帰ってきたら、」


「それのどこが分かってんだよ。俺は“今”って言ってんだろ。ハンバーグなんか後回しだ」



いやっ、


私が急いでいる理由はそっちじゃないんだけどっ…



掴まれた腕を振り解いてでも今すぐに家を出たい私だったけれど、私の腕を掴むソウちゃんの右手にはとても強い力が入っていてそう簡単に離してもらえそうにはなかった。



「っ、分かった、分かったから!」


「……」


とりあえずその手を離してという思いを込めてソウちゃんを見つめ返したけれどソウちゃんは黙ったままやっぱり強く私の腕を掴んでいて、その目は腕がどうこうではなく早く話せと言っていた。

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