第19話

「一人暮らしなの?」


「あ、はい」


「若いのに大変ねぇ。おいくつ?」


「十七です」


「あら、うちの孫と同じだわ。じゃあ今高校生ね?」


「はい…」


「そうなの、偉いわねぇ。今時挨拶なんてしない人の方が多いのに、あなた真面目なのねぇ。これ洗剤?助かるわぁ。こういう使える物を貰うのが一番無駄がなくて嬉しいじゃない?昔格好つけて入浴剤を持って来た人がいたけど、入浴剤なんて貰ったってこんなアパートでそんなもん使うわけ———…」



話を広げ始めたそのおばあちゃんに私は少しだけ焦り始めていた。


今は十七時何分くらいになっただろう…


ここで携帯を確認するのはさすがに失礼だろうからできないけれど、どうしても十八時までに駅に向かいたい私としてはとにかく落ち着かなくて気が気じゃなかった。


そして今になって上着を着て来なかったことに気付いた私は、その寒さに思わず肩がブルッと震えた。



「———…あ、そうそう。あなたの部屋ってこの真上の部屋よね?」


「あ、はい、そうです」


「右隣の部屋の人には気をつけなさいね?」


「え…?」


右隣の部屋って…私が一番最初に訪れて不在だった、あの向かって左の角部屋の…



「そこも若い子が一人で住んでるんだけど…その男の子、過去に人を殺したって噂だから」


「えっ…!?」


「本当のことは知らないわよ?でも挨拶したって何も返ってきやしないし、いつも無愛想でムスッとしててものすごく印象も悪いのよ。…だから本当、気をつけてね?」


「……」



噂…って…


このおばあちゃんは同じアパートに住んでいるというだけの人のそんな噂を一体どこから得たんだろう…


それに気をつけてって、隣に住む私が何をどう気をつけたらいいのか…



その噂が本当かどうかはもちろん私には分からないけれど、さっきその部屋の人が不在だったのはラッキーだったかもしれない。


明日挨拶に行く時はやっぱりソウちゃんについてきてもらった方が良さそうだな…



「二階にはこれから挨拶に行くの?」


そのおばあちゃんはそう言って、私の持っていたまだ洗剤が四箱も入っている袋を指差した。


「…あ、いえ。上は先に回ったんですけどどの部屋の人もまだ帰られていないみたいで…いなかった部屋の方へは明日また行ってみようかなって思ってます」


「あぁ、その方がいいわ…夜よりは昼間の方が安全でしょう」


「……」


変な話を聞いたあとだからなのか、おばあちゃんのその言葉が私にはやけに意味深に聞こえてちょっとだけ怖くなった。

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