第18話
「行くとこ…?」
「うん!すぐ済むから、その帰りにスーパーにでも寄ってご飯買って帰ってくるね!ソウちゃん何食べたい!?」
「……じゃあチーズハンバーグ」
「分かった!コンロとかがまだないから出来合いのものになるけど、探して買ってくる!待ってて!」
私は早口で最低限のことを伝えると、すぐに外に出て玄関のドアを閉めた。
あの様子ならソウちゃんが追ってくることはないだろう。
最悪追って来られて挨拶に一緒に行くのも、そのあと駅まで一緒に向かうのも別に構わない。
でも私のその駅に向かう目的に間に合わないのだけは本当に困る。
私の部屋は二階の左から二番目の部屋だから、それ以外の部屋は向かって左に一部屋と右に二部屋ある。
とりあえず近いところからと思い左の角部屋のインターホンを押してみれば、私の部屋同様にこの部屋もその音はバカみたいに大きいらしく通路にいる私にまでしっかりとその音が聞こえてきた。
これならあんまり遅い時間だと迷惑だっただろうな…
しばらく待ってみたけれど、その部屋の人は不在のようで何の反応も返っては来なかった。
いないならいないで、早く次に行かなきゃもう本当に時間がない…!
私はすぐにその部屋の人に見切りを付けて私の部屋の右側の二部屋の方を訪れたけれど、そちらもまた誰も出ては来なかった。
みんなまだ仕事から帰ってきてないとかかな…
でもこれは時間のない今の私からしてみればある意味都合が良い。
いない人はまとめて明日に持ち越すことにして、私はすぐに一階へ向かおうと階段を下り始めた。
このアパートの鉄骨階段の信用性は正直ゼロに等しいほどに錆びてしまっていて、こうも衝撃を遠慮なく加えるような下り方をしてはどこからともなく今にも崩れ落ちてしまいそうなほど頼りないものだった。
それでもはやる気持ちを抑えきれない今の私にはそんなことはどうでも良くて、近所迷惑なんて気にも止めずにカンッ!!カンッ!!と大きな音を発しながらその階段を駆け下りた。
一階に下りると、今度の私は向かって右から二部屋を先に訪れた。
二階と違いその二部屋の住人は部屋にいて、どちらも中年の男の人が出てきた。
外がもう暗いこともあったのとソウちゃんが“こんなアパートなんだからどんな奴が出てくるか分かんねぇし”なんて言うもんだから、男の人が出てきた時点で私はほんの少しだけ肩に力が入ってしまった。
それでも「今日上の階に越してきた者です。これからよろしくお願いします」と事前に決めていた言うことを早口で言って洗剤を一箱差し出せば、その人達はどちらの部屋の人も笑顔でそれを受け取ってくれた。
私の部屋の真下に住んでいたのは七十代くらいのおばあちゃんで、さっきと同じセリフを口にすればその人も「あらぁ」と笑顔で私の差し出した洗剤に手を伸ばした。
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