第17話

———…





「わっ!もうそんな時間!?」



さっきショッピングモールで買ってきたばかりの壁掛け時計の時間を合わせてくれていたソウちゃんのそれを横から覗き込んだ私は、今が十七時半であることに気付いて思わず大きな声を出した。


カーテンはすでにソウちゃんが取り付けてくれていて、それはもうすでに閉められていたから外の暗さにも全く気付けなかった。


「…え?」


「私他の部屋の人に挨拶してくる!」


私が慌ててソウちゃんにさっき散々なことを言われた洗剤の入った袋を両手に持って部屋を出ようとすると、ソウちゃんもすぐに私のあとをついてきた。



「えっ、ソウちゃんも行くの?」


「そりゃお前、こんなアパートなんだからどんな奴が出てくるか分かんねぇし…一人で行ったらお前が一人暮らしだってことがバレるだろうが」


「この部屋の広さなら今ソウちゃんがついてきてもそのうちすぐにバレるでしょ。ていうか一緒に行ったって私が挨拶して洗剤渡せばその瞬間バレるよ」


「だとしても一人で行くより男がいた方がまだマシだって。ちょうどいいわ、俺が全員とちょっとずつ話してどんな奴が住んでんのか探り入れてやるよ」


そう言って靴を履こうとしたソウちゃんを、私は急いで両腕を広げるようにしてその動きを止めさせた。


本当はソウちゃんの両腕を掴んでその動きを直接阻止したいところだったけれど、なんせ今の私は洗剤の入った袋で両手が塞がっているから両腕を広げるのが精一杯だった。



…こんなことなら、たしかに液体のボトルタイプとかにするべきだったかもしれないな。



そう思わなくもなかったけれど、両腕を広げるだけでもソウちゃんはしっかりその動きを止めてくれた。



「いいよ、そんなの!てか今はそんなご近所さん達とゆっくり話してる暇ないから!」


「え?時間ならあるだろ?まだ十七時半だぞ?」


「私この後ちょっと行くところあるの!」




ここから最寄駅までは徒歩十分。


走ればきっと七、八分で行ける。


挨拶をささっと済ませれば、十八時までに駅に行くことは十分可能だ。



このアパートの部屋数は一階と二階でそれぞれ四部屋ずつだから…単純に考えて私はこれから七部屋も訪れなきゃならない。


その中に空室の部屋もあるかもしれないし住人がまだ不在の部屋もあるだろうけれど、だからって十七時半を過ぎている今私に時間がないことには何の変わりもない。


この際両隣と真下の部屋だけでいいかとも思えたけれど、洗剤はしっかり七箱買ったしソウちゃんの言う通り変な人が住んでいて挨拶をしなかったことで関係を悪くするのは私の今後の生活に悪い影響を与えることにもなりかねない。

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