第16話

「てかそっちもそっちで重いだろ」


両手が塞がっていたソウちゃんは、そう言いつつ顎で私が両手に持っている袋を指し示した。


たしかに私が持つ袋も両方パンパンだけれど、その大半はこのあとあのアパートの他の部屋の人達に挨拶に行く時に持っていくための洗剤だから布団ほどの体積はない。



「てかさ、今時引越しの挨拶が洗剤って…」


「食べ物は好みとかもあるし洗剤なら間違いなく使えるから問題ないかなって」


「せめて液体にしろよ。今時粉末なんか使ってる奴ほとんどいねぇだろ」


「そうかな?でもこっちの方が安かったし。ソウちゃんのことだからこれのお金も私には出させないだろうと思って、だから私はできるだけ安」


「あー、はいはい、分かった、分かった」



お金の話はしたくないらしいソウちゃんは、わざとらしく私の言葉を遮ってこの話を終わらせた。



駅に到着する直前で「あ、テーブル買うの忘れた」とソウちゃんは言ったけれど、私は「しばらく段ボールをテーブル代わりにするから問題ないよ」と言った。


それに対してソウちゃんは「貧乏くせっ」とこれまた失礼なことをボソリと呟いたけれど、どうせ今日買ったところで今の私達には持てなかったと思えばやっぱりそれは買わないでむしろ正解だったと思う。





結局ソウちゃんは家までしっかり私の布団を持ってくれて、私は申し訳なく思いつつもその優しさにしっかりと甘えた。



「お前このあと何すんの?」


「何って掃除だよ?」


私はそう言って、ソウちゃんに持ってきてもらったいらない服の入った紙袋を指差した。


「もう少ししたら叔父さんの家から荷物も届く予定だし、とりあえずそれまでは部屋にはいなきゃなんないし」


「ふぅん」



お金持ちの家で育ち、若干世間知らずなところのあるソウちゃんが私とこんな部屋の掃除をするのは退屈だし嫌だろうと思ったけれど、ソウちゃんは上着を脱ぐとすぐに腕捲りをして「やり方教えて」と言って掃除までをもしっかり手伝ってくれた。


今日は泊まると言っていたからそれに対する恩返しのようなつもりだったのかもしれないし、暇だからとか気が向いたからとかそんな適当な動機だったのかもしれないけれど、そのおかげで荷物が届くまでにある程度の掃除は全て終わらせることができた。



「何から何までありがとう、ソウちゃん!」


「それはいいけど…え、てか荷物ってこんだけ?」


引越し業者の人が叔父さんの家から私の家に届けてくれたのは、そこまで大きくもない段ボールニつ分の荷物だけだった。



「え?うん、そうだよ?」


「少なすぎだろ。逆に何が入ってんだよ」


「学校のものとか私服とか制服とか諸々」


「これなら業者に頼むほどかよ」


そう言ってソウちゃんはその段ボールをトンッと軽く足で蹴った。



本当に失礼な人だ…けど、この人に悪気がないのは分かっているからなぜか怒る気にもなれない。


それに買い物とか掃除とかも付き合ってくれたしな。



「だからそれは叔父さんが言い出したことなんだってば」


「あの人金銭感覚狂ってんな…」



ソウちゃんもなかなか人のことは言えないと思うけど…



…ってまぁそれを言えば怒りそうだから言うのはやめておいた方がいいだろうな。

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