第14話

「どっちって?二択なの?」


「しかなくね?」


「何と何?」


「俺か、学校か、だろ」




やっとあの家を出られた私がわざわざ叔父さんの家もあるこの街にとどまったのには確かにちゃんと理由がある。


それも“この街ならどんなとこでもいい”なんて言ってまで譲れなかったんだから、そりゃもうきっと今の私にとってそれは何にも変え難いほど大事なことのはずだ。



でもそれは幼馴染であるソウちゃんがこの街にいるからでも、今の学校に通うためでもない。


後者にいたっては絶対にありえない。


だって私の通う高校はこの街からなら電車で通わなきゃならない距離なんだから、それで言うならその学校にもっと近い場所を選ぶべきだろう。



でもソウちゃんはそれに気付いていないのかもう前者だと思っているのか、当然のような顔でこちらを見つめて私の答えを待っていた。



「さぁ…どうだろうね」



いくらソウちゃん相手でも、本当の理由を言う気にはなれなかった。


だってあれは私だけの密かな楽しみであり生き甲斐であり、それを否定されたり止められようものならば私がこの街にとどまった意味がなくなってしまう。






この街は決して広くはない。



元々私がお父さんと住んでいた家はこの近くで、ここよりはまだもう少しマシだけど二人で住むにはギリギリなくらい狭いアパートだった。


叔父さんの家はそこから目と鼻の先で、そしてその叔父さんの家はこの私の城から目と鼻の先で、


ちなみにソウちゃんの家だってそれらからは目と鼻の先にある。



私の人生はなんて狭い世界で進んでいるんだろう。




そう思えば心底うんざりするし今すぐにでも捨ててやりたいとも思うのに、そこだけはどうしても譲れなくて私はこの街を出る決断には至らなかった。




ソウちゃんは私の曖昧な答えに少しムッとしつつも、それ以上は何も言わずにまたコーヒーを啜っていた。

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