3
ここだけが、見えない壁に覆われているんじゃないかと錯覚するぐらい…周りの喧騒が気にならなかった。
「君は本当に、不思議な気分にさせる…」
「ん?」
「君を見てると、何とも言えない感情が湧き上がってくる」
「…どうゆうこと?」
「どうゆうことだろうね。自分でもよく分かってない」
こんな自分を嘲笑ってみる。
「…四季くんは、」
彼女の話し方は丁寧で心地良い。
「甘いものが苦手で、お酒は割と好きで、窮屈なのが苦手で、服は大きめを好んで着てる。話す事は苦手で、話を聞いてあげる事に戸惑いはなくて」
「…なにそれ?」
「わたしが知ってる四季くんの話し」
「え…?」
「話しをする時は視線を逸らしてくれないのに、笑う時だけ少し下を向く癖がある。わたしが並んで声をかけると、首を
「え?」
「四季くんは…格好つけないからかっこいい」
「…いや」
照れ臭くて、黙って聞いちゃいられない…
「休みの日でも、お仕事の付き合いで出かけちゃうから、あまり連絡はくれない。それでも四季くんは、わたしに時間を作ってくれてたんだって知った」
…この子は本当に、
「大事な人、守りたい人がたくさん居て、四季くんの揺るぎない正義が、その内の一人でも欠けることを許さない。わたしには…計り知れない物をたくさん背負ってるんだろうな…」
どうしたって俺の心を揺さぶる…
彼女が右手を差し出す。
「四季くん、手を出して…」
言われるがまま左手を差し伸べると、彼女はその手を握って言う。
「わたしに受けとらせてね」
「…なにを?」
「四季くんが抱えてるもの…?」
不意に拓の言葉が過ぎる。
「…君に、背負って貰おうなんて考えたこともない。背負わすつもりもない」
「でも…後悔してるよね…?」
「え?」
「救えなかった人、叶えられなかった事…守りたかったもの…四季くんの中に、あるよね…」
「…彩ちゃん、何の話を…」
「だからお父さんの話をしてくれたんじゃないの?」
彼女の話に理解が追いつかない。
「お父さんの事、救いたかったのかなって…親子でもっとやりたい事や、したかった事、あったのかなって…二人の暮らしを守りたかったのかなって…」
自分の事とは思えない。
「四季くんは…四季くんの所為でお父さんが亡くなったと思ってるの…?」
「…まさか…」
否定の言葉を口にしながら、その後に続く言葉が出て来ない。
「四季くんはずっと、自分を責め続けてるんだね…」
「…え?」
「四季くんが入院してる時、わたしに吐いた嘘がある」
「…うん」
「これはわたしの想像だけど…四季くんはわたしに嘘を吐いたとゆう事実を今も尚、悔やみ続けてる…それは私の為だったと…わたし自身が気にしていないと言っても、きっと四季くんは自分を責めるんだと思う…その四季くんの正義感が四季くんを苦しめてるのかな…」
「…なぜ、君はそんな風に思うの?」
「四季くんが…今も、あの時と同じ表情をしてる…わたしに嘘を吐いてしまったとゆう、拭いきれない責めと、お父さんの話しをしている時の四季くんは、同じ責めの後悔に感じる…」
「…本当に、君って子は…」
どうも俺の周りには、似たようなお節介が集まって来るらしい…
「彩ちゃん」
「ん…?」
それが嫌じゃないから不思議だ。
「親父の墓参りに一緒に行ってくれる?」
彼女は俺の手を握り締め、
「うん」
泣きそうな顔で頷いた。
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