ここだけが、見えない壁に覆われているんじゃないかと錯覚するぐらい…周りの喧騒が気にならなかった。



「君は本当に、不思議な気分にさせる…」


「ん?」


「君を見てると、何とも言えない感情が湧き上がってくる」


「…どうゆうこと?」


「どうゆうことだろうね。自分でもよく分かってない」



こんな自分を嘲笑ってみる。



「…四季くんは、」


彼女の話し方は丁寧で心地良い。



「甘いものが苦手で、お酒は割と好きで、窮屈なのが苦手で、服は大きめを好んで着てる。話す事は苦手で、話を聞いてあげる事に戸惑いはなくて」


「…なにそれ?」


「わたしが知ってる四季くんの話し」


「え…?」


「話しをする時は視線を逸らしてくれないのに、笑う時だけ少し下を向く癖がある。わたしが並んで声をかけると、首をかしげて聴いてくれる」


「え?」


「四季くんは…格好つけないからかっこいい」


「…いや」



照れ臭くて、黙って聞いちゃいられない…



「休みの日でも、お仕事の付き合いで出かけちゃうから、あまり連絡はくれない。それでも四季くんは、わたしに時間を作ってくれてたんだって知った」



…この子は本当に、



「大事な人、守りたい人がたくさん居て、四季くんの揺るぎない正義が、その内の一人でも欠けることを許さない。わたしには…計り知れない物をたくさん背負ってるんだろうな…」



どうしたって俺の心を揺さぶる…



彼女が右手を差し出す。



「四季くん、手を出して…」



言われるがまま左手を差し伸べると、彼女はその手を握って言う。

 


「わたしに受けとらせてね」


「…なにを?」


「四季くんが抱えてるもの…?」



不意に拓の言葉が過ぎる。



「…君に、背負って貰おうなんて考えたこともない。背負わすつもりもない」


「でも…後悔してるよね…?」


「え?」


「救えなかった人、叶えられなかった事…守りたかったもの…四季くんの中に、あるよね…」


「…彩ちゃん、何の話を…」


「だからお父さんの話をしてくれたんじゃないの?」



彼女の話に理解が追いつかない。



「お父さんの事、救いたかったのかなって…親子でもっとやりたい事や、したかった事、あったのかなって…二人の暮らしを守りたかったのかなって…」



自分の事とは思えない。



「四季くんは…四季くんの所為でお父さんが亡くなったと思ってるの…?」


「…まさか…」



否定の言葉を口にしながら、その後に続く言葉が出て来ない。



「四季くんはずっと、自分を責め続けてるんだね…」


「…え?」


「四季くんが入院してる時、わたしに吐いた嘘がある」


「…うん」


「これはわたしの想像だけど…四季くんはわたしに嘘を吐いたとゆう事実を今も尚、悔やみ続けてる…それは私の為だったと…わたし自身が気にしていないと言っても、きっと四季くんは自分を責めるんだと思う…その四季くんの正義感が四季くんを苦しめてるのかな…」


「…なぜ、君はそんな風に思うの?」


「四季くんが…今も、あの時と同じ表情をしてる…わたしに嘘を吐いてしまったとゆう、拭いきれない責めと、お父さんの話しをしている時の四季くんは、同じ責めの後悔に感じる…」


「…本当に、君って子は…」



どうも俺の周りには、似たようなお節介が集まって来るらしい…



「彩ちゃん」


「ん…?」



それが嫌じゃないから不思議だ。



「親父の墓参りに一緒に行ってくれる?」



彼女は俺の手を握り締め、


「うん」


泣きそうな顔で頷いた。

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