彼は時々、手首にかかる袖を振り、腕に巻かれた時計を見る。


その一瞬の仕草から垣間見える手の血管が、手首に繋がり、袖に隠れた彼の腕を通っているんだと目で追った。



「四季くんはまた長袖になったね」


「え?」


「ずっと半袖だったよね」



そんなに見た訳ではないけど、何度か会った時に彼は半袖を着ていた。



「雨が降ると少し寒いよね」


そう答えた彼は、わたしが彼の腕を直にれられない事に寂しさを感じているとは思ってもいない。



「この下は半袖だよ」


上の服をめくり、下に重ねている服の裾を見せてきた。



「四季くんは体のラインが分かり難い服を着てるよね」


「え?」



口に出して、なんて事を言ってるんだと自分で驚く。



「あの…」


窮屈きゅうくつなのはあまり好きじゃない」


彼は言葉を続けてくれた。



「だから、拓みたいにサラリーマンにはなれない」


「え?」


「毎日スーツ着て仕事はできない」


分かりやすく言い直してくれた。




「でも四季くんはスーツが似合うと思う」


「そうかな」


「うん…」



想像していないのに言葉にしただけで、なんだか知らないけど恥ずかしくなった。



「彩ちゃんはいつも雰囲気が変わるよね」



言われて自分の服を見る。



「俺は似たような服しか着ないけど」



四季くんがわたしを観察している…



「図書館にいる時は涼しそうな色の服を着て、拓と会った時は落ち着いた色味の服だった」


「え…?」


「今日はカジュアルだよね」



四季くんはどの装いが好きだった?


聞きたいのに聞けない…



「しかも今日は服が白いから、ここに居ると君だけ特別に見える」



ブラックライトがわたしの白い服を蛍光色に変化させて見せる。



「四季くん…」


ぎゅっと彼の腕にしがみ付く。



「なに?」


「恥ずかしいからやめて…」


「え?」


「恥ずかしいから見ないで…」


「え?可愛いよ」


「…恥ずかしいんだってば…」



さっきまで気にならなかったのに、彼の言葉一つで身体中の熱が上り始める。

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