我儘な子だと思われてしまっただろうか…


彼の手がわたしの背中を摩る。



「彩ちゃんだけじゃないよ」



大きな水槽の中を伸び伸びと泳いでいる魚達を、彼が瞳に映す…その横顔に、手を伸ばしそうになった。



「俺も、彩ちゃんとだからここに居て楽しいって思える。君の隣はいつも温かい」



背中を摩っていた手に体をグッと引き寄せられた。



「折角だから、君との思い出を堪能たんのうしたいんだ」



四季くんはずるい…



「さぁ行こう、次を見に」



背中を押され、重かった筈の足取りが軽い。



大人な四季くんと、子供なわたしの見えない距離がもどかしい…



「彩ちゃん」


「ん?」


「どっちから見る?」



目の前には選択肢が2つある。



このまま真っ直ぐ行けば、深海魚のコーナーで、左に曲がれば、屋外に設置されているプールでアザラシが見れる。



「四季くんはどっちに行きたい?」


「え?」



わたしの行きたい方向は決まっている。彼が同じ方向を選択してくれるのなら、まぐれでも偶然でも、わたし達のこれからは安泰あんたいだと…願を賭けてみる。



「俺は…こっちかな…」



彼が指差したのは真っ直ぐ前へと続く、深海魚の水槽があるコーナーへ続く通路だった。



「四季くん!わたしもこっちから行きたい!」


「あ、ほんと?じゃあ真っ直ぐ行こう」



四季くんがわたしと同じものを選んでくれた…誰か私の代わりに踊り狂って大喜びして欲しい。



「四季くん深海魚が見たかったの?」



嬉しさを隠しきれない声が出た。



「彩ちゃんがこっちを見たいかなと思って」


「え?」


「良かった、嬉しそうで」



彼も嬉しそうに笑っている。

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