「彩ちゃん着いたよ」



駐車場に入り、車から降りる。口の中に残っている飴が、言葉を発するのを少なくさせた。



四季くんの自宅マンションは真新しそうな建物だった。4階に住んでいると、エレベーターに乗った時に教えてくれた。



部屋の前まで行くと、ドアの郵便受けに書類が差し込まれている。


鍵を開けて書類を引っこ抜くと、四季くんがドアを開けてくれた。



先に中へ入るよう誘導され、後ろ背にドアが閉まる。



薄暗い玄関に立ち尽くしていると、「入って」と声をかけられた。



「お邪魔します」


四季くんの後を付いて進むと、リビングへ通された。



「座って」


ソファに誘導されて腰を降ろす。



「彩ちゃん、何か飲む?」と聞かれたけど、口の中に飴が残っているから大丈夫だと伝えた。



四季くんは「ちょっと待っててね」と言って、手に持っていた書類を持ってリビングを出て行く。



静まり返ったリビングは、やけに広いなと感じた。誰かと一緒に暮らしているのか…その割には物が少ない気もする。



立ち上がってカーテンを少し開けた。誰とも交わらない視界が広がり、四季くんがこの部屋を選んだ理由は知らないけど、わたしはこの部屋が好きだなと思った。



今日は休みだったのかな…



用もないのにお邪魔するのも気が引けてくる。



リビングに戻って来ない四季くんを探して、玄関の方を覗いてみたけど居なかった。



口の中の飴が溶けて消えて無くなり、二つ目を缶の容器から取り出して口の中へ入れた。舌で転がしながら落ち着かない。



もう一度リビングのドアの前に立ち、四季くんの姿を探してみる。左に見える通路から少し開いている部屋のドアが見えた。



引き寄せられるようにドアの前まで行き、軽くドアをノックすると、四季くんの声がした。誰かと話をしているみたいで、部屋の中は覗かず、ドアが開くのを待つ。



すぐに四季くんが部屋へ招き入れてくれた。電話をしながら部屋のドアを開けてくれる。



窓から差す明かりが部屋の中心にあるベッドを際立たせる。隅に置かれた机に書類が並べられ、それを見ながら電話で話をしているようだった。



「明日の流れは以上だから、あとは現場で確認して」



四季くんはそう言って電話を切った。



「ごめんね彩ちゃん」



四季くんが振り返り、声をかけてくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る