第21話

「そういやハル、さっきシロウのこと“シロちゃん”とか言ってたなぁ?」


「うん。よくない?私が名付けたんだよ」


「アイツがよく許したな」


「許可はもらってない」


「はははっ、マジか」


自転車だけじゃない。


ユウマくんが笑うのに合わせて、目の前の背中も小さく揺れる。


ユウマくんの声はいつもどこか踊っているみたいにこちらに届くから面白い。


やっぱり全然悪い人なんかじゃなかった。



私にはどうやら見る目があったらしい。



「ユウマくんって悩みなさそうだよね」


そんな失礼なことを言った私に、


「ナメんじゃねぇし」


ユウマくんはそう言ってまた背中を揺らした。



「服砂まみれになっちゃったよ」


「そのまま洗濯したら洗濯機壊れるから、ちゃんと落としてからにしろよ」


「はーい!」


「引越し初日に知らない男達と海で遊んだとか聞いたら親びっくりするだろうな。俺送ったついでに顔出すか?」


「あー、うち親いないからそこんとこは大丈夫」


何気なく言ったそれに、ユウマくんは「…えっ?」と変な間をあけて驚いたような声を出した。


「親は五日前に両方死んでね、だからおばあちゃんの家に引き取られてここに来たんだ」


「あー…そうだったのか…」


「うん」


明らかに声色の曇ったユウマくんに私はこれまでと変わらない調子で相槌を返したけれど、ユウマくんは突然自転車に急ブレーキをかけて自転車を止めた。


あまりにも急なことで、油断していた私の体はそのまま勢いよく前のめりになって顔面をユウマくんの背中にぶつけた。


「っ、いっ———…何っ?どう」


「大丈夫か!?」


その声に顔を上げれば、ユウマくんはこちらを振り返って私を見ていた。


「鼻は打ったけど…まぁなんとか」


「じゃなくて!親がいなくなったこと!」


「……」


「お前は寂しくないのかよ!」



その時目にじんわりと浮かんだ涙は、きっと鼻を打ったからというのだけが理由ではなかったと思う。



「…寂しいに決まってるじゃん…」


「……」


「でも大丈夫だよ。おばあちゃんもそうだけど、今日出会ったみんなもめちゃくちゃ優しかったし、それに海だってめちゃくちゃ楽しかったからついつい時間を忘れて……あっ!!」


突然大きな声を出した私に、こちらを振り返っているユウマくんはビクッと小さく肩を揺らして「え!?何!?」と言った。


「おばあちゃん!!私すぐ戻るって言って家を出たんだった!!」


急いでポケットから携帯を取り出せば、案の定おばあちゃんからは鬼のように電話がかかってきていた。


「ちょっと電話していいっ?」


「…あぁ、おう」


それからユウマくんは、私が少し操作してから携帯を耳に押し当てたことで前へ向き直って再びゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。

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