第20話
「ハルー」
ユウマくんにそう声をかけられたのは、服に付いた砂を必死に払い落としながらモンちゃんとオグちゃんととりとめのない話をしている時だった。
「うん?」
「帰るぞー」
「えっ、帰りも後ろ乗せてくれるの!?」
「当たり前だろ?連れてきたの俺なんだし」
「やった!」
私がすぐにそちらに駆け寄れば、それを確認したユウマくんはゆっくりと砂浜から堤防の方へと歩き始めた。
堤防を登りきって振り返ればまだ砂浜のところにいるモンちゃんとオグちゃんと、それから木戸くんを含む三年生達の姿がしっかり見えて、私が大きく手を振るとすぐにみんなこちらに手を大きく振り返してくれた。
…これは“友達ができた”ってことでいいのかな。
「一日って終わるの本当早いよなー」
そう言いながら自分の自転車のカゴに飲みかけのジュースのペットボトルを投げ入れたユウマくんは、散々遊んだというのにまだまだ物足りなさそうな顔で「一日が五十時間くらいあればいいのに」と文句を言った。
「さすがに長すぎ」
「そうなれば実質夏休みも二倍じゃね?」
「いや、そうなれば夏休みは今の半分の日数に短縮されると思う」
「マジか!!」
「はははっ、一日が五十時間になればの話ね?ていうかシロちゃんは?」
はっきりといつからなのかは定かじゃないけれど、シロちゃんは気付けば見当たらなくなっていた。
それにジュースを買いに行って以来まともに言葉も交わしていない。
シロちゃんとは唯一二人きりになる時間があったけれど、結果的に言えばシロちゃんが一番話さなかったな…
「シロちゃん?」
「弟のシロウ」
「あぁ、先帰ったよ」
「あ、そうなんだ…」
何も言わずに帰るくらいだから、きっとまだシロちゃんは私を“友達”とは思っていないだろう。
私だって自信を持ってそうは言えない。
“シロちゃん”って本人に呼んで反応を見たかったのに…
「ほら、乗っていいよ?」
そう言うユウマくんは、すでに自転車に跨って私が荷台に乗るのを待ってくれていた。
私がすぐに後ろに乗って、行く時はしなかったユウマくんの腰あたりのTシャツを両手で掴めば、自転車はゆるゆると発進して来た道を戻り始めた。
「家どの辺?」
「たぶんユウマくんと方向は同じだと思う」
「そっか。じゃあ途中から道案内よろしく」
「はーいっ」
ユウマくんが自転車を漕ぐ度にぐわん、ぐわんとほんの少し速度に勢いがつく。
そしてその度に、私の体も前に引っ張られるようにぐいっ、ぐいっ、と少し揺れる。
その一定のリズムが心地良くて、私は全身の力を抜いて身を委ねた。
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