第19話

「…そろそろ手、いいかな」


私が遠慮がちにそう申し出れば、モンちゃんは思い出したかのように「あ、ごめんごめん」と言って依然握手をしたままだった手を私からパッと離した。


「みんな学年問わず仲良いんだね」


「この界隈だけだけどね」


「界隈?じゃあ集まるのはいつも同じメンバーなんだ?」


「いつもってことはないよ。今日来てないユウマくんの友達も何人かいるし」


「じゃああの兄弟がきっかけなんだね」


「そうそう」


再び三年生達の方へ目をやれば、大きな木戸くんが次々に三年生を抱き上げて海へ放り投げていた。


「わっ!」


「あははっ、木戸先輩さすがだわ」


背が高いと思っていたユウマくんも、木戸くんの手にかかればお姫様抱っこでポイっと軽く投げられてしまうんだから驚きだ。


「みんなめちゃくちゃ笑ってる…楽しそう…」


「木戸先輩ん家はこの辺で一番大きな酒屋でさ、その手伝いとかで重たいビールケースとかいっつも運んだりしてるからめっちゃ馬鹿力なんだよ。それにあんなデカいし」


「へぇ…ははっ、すごいね」



それから私は足だけで海を堪能しつつ、モンちゃんに学校やこの辺りの話をたくさん聞いた。


中学校は各学年七クラスあって、オグちゃんとシロちゃんは同じクラスだけどモンちゃんは違うクラスらしい。


三人は小学校がバラバラだったから、こう見えてもまだ友達になって日は浅いんだとか。


それからモンちゃんには、学校に好きな人がいるらしい。


誰かと聞いてみたけれど、名前は教えてくれなかった。


まぁ聞いたところでそれが誰なのか私に分かるわけはないし、きっと学校が始まる頃には忘れてしまうだろうからどっちでもいい。



話し上手なモンちゃんのおかげもあって緊張もかなりほぐれてきた頃、ユウマくんに呼ばれて私達はまたみんながいる砂浜の方へと戻った。



いつ帰ってきていたのかジュースを買いに行ったシロちゃんとオグちゃんもすでに三年生に混ざってそこにいて、それから私も含めた十人全員でビーチバレー的なやつをやった。


浮き輪のボールだから飛んでくるのも飛んで行くのもゆっくりで、タイミングが掴めず何度も盛大に転けたから私の服はあっという間に砂まみれになった。


その度にみんながゲラゲラ笑うから、私も釣られて大笑いした。


それと木戸くんが爪先で砂浜に引いたラインが全然見えなくて全員が大ブーイングで、それにずっと温厚だった木戸くんが「うるせぇっ!!」と怒ったのも私には可笑しくて仕方なかった。



本当に本当に、文字通りお腹が痛くなるくらいに笑った。



そして気付けば辺りは少し薄暗くなっていた。

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