第17話
「海戻らないの?」
「…戻る」
「そっか」
私はそう言って、右側にある岩場に行こうと歩き出した。
でもその瞬間、“シロウ”は私の手首を背後から咄嗟に掴んで足を止めさせた。
「っ、」
「そっち危ない」
「えっ?」
「こっち」
“シロウ”は一方的にそう言うと、そのまま私の手首を引いて真逆の方向へ歩き始めた。
“心を許した人しか相容れないタイプ”ではないのか…
「あの岩場ら辺は夜花火とかやった奴の捨ててったゴミとかが多いんだよ」
「あぁ、そうなんだ…」
「たまに瓶とかもある。足でも切って騒がれたら面倒くさい」
…言い方よ。
そう思いつつも乱暴な言い草に比べると私の手首を引くその手は驚くほどに優しくて、そんな“シロウ”に私は素直に「ありがとう」とだけ返した。
「この辺なら大丈夫」
“シロウ”がそう言って私の手首から手を離すと同時にこちらを振り返ったのは、他のみんなからもしっかり見える位置だった。
「ありがとう!」
「あんま進むなよ」
「うん?」
「足取られて溺れたら危ないじゃん。お前見るからに泳げなさそうだし」
「さっきから一言多いよー?」
そう返しながらゆっくりと引いた海水の濡れた砂を踏めば、しばらくするとまた波が押し寄せて私の足を濡らした。
「わっ…!冷たい!冷たいねぇ!」
「俺そう言ったし」
「もうちょっと行ってみよ」
「だぁから行くなって!」
「うるさいなぁ。足首までだよ」
二歩ほど進めば今度はくるぶしまでが水の中に入り、両足が踏みつける砂も柔らかくて独特な感触がした。
「あはっ、やばい!超気持ちいい!」
それからも何度も引いては押し寄せる波に、私は水を軽く蹴り上げたりしながら足で海を楽しんだ。
こんなことなら水着を手持ちのバッグに入れておくんだったな。
———…あ、
思い出したように振り返れば“シロウ”はまだそこにいて、浅いところで海を楽しむ私をまたじっと見つめていた。
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