第16話
今海から出てきたばかりなのかその髪の毛からはポタポタと水が滴っていて、やっぱりこの人は私をじっと見つめていた。
「あ、うん。水着持ってきてないから」
「取りに行けば?」
「水着は明日届く荷物に入ってるの」
「…ふーん…」
「……」
「……」
「……」
会話が途切れたかと思えば、“シロウ”はまた私をじっと見つめていた。
この時間って何なんだろう…
「…海に」
「それ涼しい?」
私の言葉を遮った“シロウ”は、いつのまにかまた私の日傘を見上げていた。
「いや、そこまで涼しくはないかな。でも焼きたくないから」
「じゃあ足だけでも海入れば?」
「…海水って冷たいの?」
「入ったことねぇの?」
「うん。…ははっ、実は海をこんなに近くで見たのも初めてだったりする」
「…海水すげぇ冷たいよ」
「そっかぁ…!」
“シロウ”の向こうにいるみんなに再び視線を移せば、みんなやっぱりとても楽しそうだった。
「…うん、じゃあせっかくだし足だけでも入ろうかな」
そう言って砂から足を引っ張り出した私は、そのまま足首を軽く振ってサンダルをその場で脱いだ。
そのまま履いていたスキニーデニムの裾を折り上げようと前屈みになったその瞬間、右肩に乗せていた日傘の中棒がスッと私の肩から離れていった。
何事かと思い「えっ、」と言いながら視線を上げれば、いつのまにかこちらへ距離を詰めていた“シロウ”は少し体を屈めて私の日傘を持ってくれていた。
「持っててやるよ」
「あ、うん…ありがとう」
それから私は“シロウ”に日傘をかざしてもらいながら、今一度しっかりとデニムの裾へ両手を伸ばした。
これくらいのことでババア発言を撤回してやるつもりなんてさらさらないけれど、どうやら“シロウ”は悪い人ではないらしい。
「…親の仕事とか?」
「え?」
「引っ越し」
「あぁ…ううん、親はどっちも五日前に死んだの」
「……」
「よし、できた。ありがとう」
そう言って日傘を受け取れば、“シロウ”は「あぁ、うん」と言って中棒から手を離した。
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