第14話
ぞろぞろと海から出てきてこちらへやって来るその三人を見ていれば、隣にいるユウマくんが「あの一番スカしてんのがシロウ」と私に耳打ちした。
「…一番左の人?」
「そうそう」
遠くからゆっくりこちらへ歩いてくる“シロウ”のその体についた水滴も海と同じようにキラキラと光っていて、私はその反射に思わず目を奪われた。
夏ってこんなに綺麗なんだ…
「俺の弟」
ユウマくんが再び私にそう耳打ちしたのは、ちょうど三人が私の目の前にやってきたタイミングだった。
「弟…」
あぁ、そうか。
それならユウマくんのいろいろにも納得だ。
「この子今日都内から引っ越してきたらしいよ。お前らとタメだって」
ユウマくんがそう言えば、“シロウ”以外の二人が「マジで?」「へぇー!」と嬉しそうな反応を示した。
どうやらこの集団はユウマくんの友達とその弟である“シロウ”の友達で構成されているらしい。
にしても、男九人となればさすがに迫力がすごいな…
しかもみんな半裸だし。
「仲良くしてやれよ、シロウ」
「……」
こちらに来てから一度も言葉を発していない“シロウ”は、ユウマくんのそれにも何も答えることはなくじっと私を見つめていた。
だから私も、じっとその目を見つめ返した。
「……」
「……」
何で何も言わないんだろう…
本当にユウマくんの弟?
タイプが全然違う…
私と“シロウ”が見つめ合う中、すでに他の人達は違う話で盛り上がっていた。
「…よろしくね」
「……」
私が声をかけてもやっぱり何も言わない“シロウ”に耐えられなくなって「何でそんなにじっと見てくるの?」と聞けば、みんなの視線がパッとこちらに集まったのが分かった。
それからゆっくりと、“シロウ”の視線が上へ移動した。
…あ、右耳から垂れてる水滴が落ちそう…
「…雨降ってないのに何で傘差してんの」
“シロウ”の声は、思ったよりも低かった。
「え?…あ、これ日傘だから」
「日傘…」
「うん」
「へぇ…」
“シロウ”は物珍しそうに私の差す日傘を見上げていた。
この街はどれだけ日傘に免疫がないのだろう。
「なんかあれだな…」
「え?」
「…ババアみたい」
「…はぁっ!?」
想像もしていなかった言葉に私が思わず大きな声を出せば三年生達はゲラゲラ笑っていて、でも“シロウ”はその何に構うこともなく隣にいる人に「海行こ」と言ってまた海へ向かって歩き出した。
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